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だらだら不本意運命奇譚  作者: 縞々タオル
恩人殺し(前)
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『偵察デート大作戦』

異国の風が、頬を撫でていた。


「良いのですか?」


土産袋を両手に提げたラミュエルが振り返れば、そこには敬愛する人物が立っていた。彼女、いや、彼は曖昧に笑っていた。


「本当は、帝国に連れてくつもりだったんだ。だが、なんだかな。思ったよりも俺は、感傷的だったらしい」


寂しそうな顔。彼がなによりも愛して、期待しているであろう少年は、今やアントニーという青年の背中に揺られて学園への帰路についている。


肝心なことを聞くことは許されず、その代わりにひたすら胃袋に物を詰められて返された少年は、この臆病な師匠を恨むのだろうか。


「それは、本人にしかわからぬことですね」


そう、それは本人にしかわからない。

ふらりと現れた彼女にも、同じことが言える。


「帰りましょうか」


泣き腫らした彼女の瞳には、決意が宿っていた。


「まだ、復讐は終わっていませんから」






ハルバが神妙な顔をしてジルトたちのクラスに来たのは、葬儀が終わった二日後である。


「デートしろ」

「は?」


ジルトが怪訝な顔をすれば、ハルバは、ばっ! とファニタを指差し。


「だから、アドレナさんとデートして来い」




よくよく聞けば、それは偵察の一環であった。

薔薇の魔女ローズ・クリエを信奉する『魔女の信徒』の本拠地がある、七つ傘通り南四丁目三番地。そこへの実際の道筋を辿って来いとのことである。


ハルバは無いはずのメガネをかちゃっと上げる動作をし、ジルトの目の前に分厚い紙束を突きつける。


「なにこれ?」

「俺が徹夜で考えたデートプラ、げふん、偵察プランだ。同じ物をアドレナさんにも渡してある。台詞はニュアンスが同じなら別に良い。できるだけ恋人同士の体で行け」

「おお、細けえ……」


ぱらぱらと紙束をめくれば、そこには台本が記されていた。やたらとファニタの赤面が多い。


「この通りにやれば、怪しまれずに偵察を完了することができる」


ハルバの黒瞳には、光が宿っていた。彼は何かを視ている。確信があるのだろう。ジルトはごくりと唾を飲んだ。


「お前の理想の復讐に、一歩近づける」


無駄な犠牲を出さない復讐に。囁かれた言葉は、ジルトの心を揺らし。


「……わかった、必ず完遂してみせるぜ。この偵察を」

「それでいい」


最近歴戦の軍師ヅラするようになったハルバは腕を組んで頷き、にやりと笑った。






名付けて、『偵察デート大作戦』。この頭の悪い作戦名は、ハルバとレオンが一時間かけて考えた力作である。


そうしなければならなかったとはいえ、ジルトの両手がお釈迦になりそうだった事態を鑑みて、やはりファニタというストッパーが必要だと考えたハルバは、計画を立案。


ちなみに自分はストッパーになり得ないと自覚している。むしろジルトのしたいことを尊重しすぎるきらいがあるので、襟首引っ掴んで止めてくれる常識人(中身は天才だけど)が必要だと思っている。



最初はハルバの中だけだったのが、部屋にこもって考えていたハルバのことを心配したレオンが強行突破を仕掛けてきたことで、彼にも開示せざるを得なくなった。


なぜか今日の閣議に参加するレオンは、満足そうに頷いて、バリバリの有能さを発揮してハルバの計画の修正案を提示。

真剣な顔をしての「ジルト君は甘い食べ物が好きだから、ここはこの店にした方が良いのでは?」とか「クライス君の道筋を正直に辿るのではなく、遠回りをして……」等多大なアドバイスをいただいた。

そして出来上がったのが、正式名称『改・真・第三版偵察デート大作戦』である。


これが上手くいってくれれば良いのだが。今朝のシミュレーションでは上手く行っていたのだが、なにせあの親友のことだ、ハルバ達の計算外のことが起こるかもしれない……そう思っていた時。ハルバの肩が叩かれる。


「おい、ダグラスの」


来たか。昨日の新聞にダグラスの不祥事が載ってから、ハルバは少し不安だった。今日学園に行ったとして、ダグラス本家の自分がなにを言われるか、予知をせずともわかる。


「なに?」


少しぶっきら棒になってしまった。振り返れば、そこには三人組が立っていた。その三人は、なんだか不満そうな顔をしている。


「余計なことをしやがって」


長身の少年が舌打ちと共に言う。ダグラス失墜と共に、迷惑を被った家の子供だろうか。ハルバは半眼になり、「余計なことって?」と訊いてやる。どうせ一族全体のことなんだろう、それも甘んじて聞いてやるか。そう思いながら。


「バルフィンとアドレナさんのことだよ。あの二人は放っといてもくっつくから、わざわざ手を出すことはない」

「……は?」


間抜けな声が出た。


「くっつけるならもっと大胆にやれ。バルフィンだけじゃない、アドレナさんも鈍感なんだ」


小さい方にこそっと言われ、ハルバは大きい方の肩越しにファニタを見た。ファニタは目を眇め、ハルバが渡した作戦資料を読んでいた。かなり大胆なことを書いたのだが、赤面することなく、熟読して暗記をしようとしている。


「ほらな?」


中くらいな方がドヤ顔をする。


「え、お前ら、それ言いにきたの? わざわざ?」

「予知能力の話をして欲しかったか?」


大きい方が呆れたような顔をしている。


「世間のようなバッシングがお好みか? お前はドMなのか?」

「いや、違うけど」

「よしんばお前に予知能力があったとして、お前のこれまでの振る舞いから悪用することはないと思われてんだよ。胸を張れ」

「……!」


なんでこんな見ず知らずの、クラスメートじゃない奴らに俺は励まされてるんだろう。そう思うのに、ハルバの胸は温かいもので満たされていた。


「……ありがとうな」

「おう、頑張れよ。同志」

「同志?」


中くらいな方が興奮した様子で言う。


「お前もあの甘酸っぱい成分を欲してるんだろ? 

たまんねえよなぁ、あの成分はよお、へっへっへ……」


何かをやっているとしか思えない少年に、ハルバは引きつった笑みを浮かべた。


たぶん、同志ではないと思う。

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