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だらだら不本意運命奇譚  作者: 縞々タオル
私が望む終わり方
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亡霊

あ、これ苦手なタイプだ、とガウナは直感した。


思慮深さに善性という不確定要素を持つレオンも苦手だが、たった今ここに入ってきた何も考えてなさそうな笑顔を浮かべる少女もまた、ガウナの苦手な部類に入る。なにせ、思考が読めないという点では共通しているからだ。


絹糸のような白金の髪に翡翠の瞳。容姿は整っているが、明らかに彼女は野生動物である。いや、野生動物の方が自分の縄張りを意識している分ましだ。彼女が着ている鎧(そもそも葬儀に鎧で来るか?)には、立派な“太陽を喰らう獅子”が刻まれており、彼女の身分を明らかにしている。すなわち、皇族。お隣の国のお姫様である。


「父の名代として、参上仕りました! 帝国第三皇女兼帝国軍大将! ラミュエル=レグナム・リオーネと申す者です! 此度は、両国の平和のために尽力なさったダグラス外務大臣に敬意の念を表したく……」


喋り方からも、ばりばりの封建主義意識がうかがえる。両国の平和と言っているが、今はあくまで停戦状態。いつ爆発するかわからない緊張状態であるというのに。


それなのに、このお姫様、単身敵国に乗り込んできて、献花をしに来たのである。


「頭可笑しいよこの女、ぐふっ」


ガウナの気持ちを代弁するように、アントニーが呟き息絶える。


「あい、すみませぬ。どうやら、踏んでしまったようです」 

ぺこりとアントニーに頭を下げるラミュエルは、くるりと向きを変えてガウナの方を見た。


「貴殿が、ガウナ・アウグスト宰相で御座いますか!?」

「そうだけど」

「お会いできて恐悦至極に御座います!」


速い、速すぎる。

ガウナは引き攣り笑いを浮かべた。


入り口にいたラミュエルは、次の瞬間にはガウナを立たせ、彼の両手を包んではしゃいでいたからだ。結界を発動する隙もなかった。


ラミュエルは、屈託ない笑顔を浮かべながら、言い切った。


「なにせ! これから獲るべき首ですからな!」


とん。


ガウナは踵を鳴らした。展開する魔法陣。しかしラミュエルは、それを見越していたかのように飛び退き回避。回避ざま体を捻り、クライスが投擲した小刀を弾く。神速の抜剣。彼女は何もかもが規格外だった。


「安心めされ。今日のところは、偉大なる外務大臣殿に献花をしに参ったのみです。焦らなくとも、宰相殿の首は斬り落とせますから」


獰猛に笑うラミュエルは、野生動物には野生動物であったが、王者の風格があった。挑発するような言い方は、何か違う気がするが。


「さて、レオン殿。これでよろしいですかな?」

「ええ、ありがとうございます。ラミュエル殿下」 


緊張状態の下、のんびりした会話が繰り広げられる。まあ、あの落ち着きよう、何か隠しているとは思っていたが。


ガウナは、とん、ともう一度踵を鳴らした。魔法陣が光を失う。黒髪の彼の方を見る。


「外患誘致で死刑にするよ」

「国がひっくり返れば、外患誘致も何も関係なくなりますね」


レオンが即返答。彼が棺を開ければ、ラミュエルが恭しく花を献じる。それ自体は一つの宗教画のように美しい。しかし、それはおぞましい光景である。


「君は、何がしたいんだい?」 


父の死を受け止め、静かに送り出したいのだと思っていた。葬儀を邪魔したのは悪かったが、それはチェルシーとエリオットが勝手にしたことであって。


「もしかして、君も魔法使いとして、僕を殺そうと思っているのかな?」

「そう、それです」


彼にしては、ひどく不快そうに眉を顰めている。とんとんと棺を指で叩く。


「貴方は、魔女でありたいんですか? それとも、魔女でありたくないのですか?」

「……うーん、ある目的のためになら魔女でありたいかもしれない。でも、魔女というのは僕にとって枷でしかないね」


初恋を思い浮かべながら言う。


「では、どちらでもないと?」

「そうなるね」

「ふーん、じゃ、死ね」


レオンの声ではなかった。小さな女の子の声……しかし、誰よりも恐怖を感じさせる声だった。コンマ一秒の差。ぱらりと瓦礫が降ってきたかと思いきや、先程までガウナのいたところに、深々と十字架が突き刺さっていた。それは、教会の屋根に飾られていたはずのものである。


冒涜的なことに、幼女はその十字架の上に座っていた。屋根に空いた穴から差し込む逆光でその顔はよく見えない。が、その赤には、大いに見覚えがある。


「げっ……」

「あんときまじで生き埋めにしてやりゃ良かったな? ああん?」


ヤンキーよろしく凄む幼女は、たぶんこの世で一番強い生き物である。






護送の馬車は、アレリア監獄に向かっていた。


揺れの少ない快適な車内。エリオットは、ぶすくれていた。


「……負けた」


本家の穏やかな青年は、全てを見越していたようだった。エリオットに復讐を許した上で、彼にそれ以上を許さなかった。魔法使いを裁くことは許しても、魔女を裁くことは許してくれなかった。


「なにが、助けられなくてごめんだ」


僻みが口をついて出る。


「あんた達が助ける義務はなかったのに」


それでも。あの優しい掌を忘れられない。彼が最期にした仕草は、彼の変わらぬ心を現していた。


エリオットは、唇を引き結んだ。格子が嵌められた窓からは、区切られた景色が見える。もうすぐアレリア監獄に着く。あの跳ね橋が動作不良を起こして、馬車は運河の中。エリオットは、そこで行方をくらます予定だ……。


しかし。




「三日後っていうのは、虚勢張りすぎですよねぇ?」




亡霊が皮肉たっぷりに問いかける。


その瞬間、エリオットには、なにも視えなくなった。いや、彼には視えていた。今まで彼が、人々に与え続けてきた暗闇が。


馬車が止まる。跳ね橋が下りる。扉が、開けられる。


「……そうか」


奇しくも、彼が馬車に乗っている状況は、あの日と同じだった。亡霊は、今度はそれをわからないままに見送ることはせず、よっこらしょと乗り込んでくる。


亡霊はーー彼女は、微笑んだ。圧倒的な憎悪を伴って。


「久しぶり、やっと思い出したよ。エリオット従兄さま」


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