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だらだら不本意運命奇譚  作者: 縞々タオル
私が望む終わり方
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闖入者

前回とは真反対の話です。

潮風がガウナの髪を嬲っていた。


父が海中から引き上げた聖剣には、成人男性のものと思わしき腕がついていた。綺麗にすっぱりと切られたそれは、深海に棲む生き物に食べられることなく残っていた。


そう、あの日は、記念日だった。本物の聖剣を、海から引き上げた日。


「貴方のおかげですよ、ブラウさん! ありがとうございます! これで、悲願に一歩近づいた……!」


父は、カメラマンをしていた男の肩を陽気に叩いた。男の名前は、確かブラウ・オクタビス。ブラウは、真っ赤な顔をして、宙空を睨みつけていた。


「死ね、死ね死ね死ね死ね……」

「うんうん、ありがとうございます。そうですよね、早く家に帰って、ご家族にご自分の手柄を伝えたいですよね!」


動物が鳴いているのを、都合よく捉える飼い主のように、父はブラウの言葉を解釈した。


「死ね、死ね、死ね……頼む、死んでくれ」


ガウナ達家族がここに来てから、一年ほど経つ。


“結界”と“抜け穴”を作るために、そして、とある魔術付与をするために、村人半数の命は失われていた。そして、偽物の“聖剣”を作るために、彼の五人いた家族は、三人まで減らされていた。つまり、彼はもっともらしい“聖剣”を作るために、二度の失敗をして子供を二人殺(リテイク)されたのである。



ガウナ達家族が、惨劇の舞台に、レトネア地方の鄙びた村を選んだのは、そこに彼がいたからに他ならない。


稀代の鍛冶師、ブラウ・オクタビス。その名声は隣国にまで轟いていたとかいないとか。彼は元々は宮仕をしていたが、戦争に使う武器を作りたくないと駄々をこね、困った王様にこの僻地まで飛ばされた男だった。


そのブラウに目をつけたのが、ガウナ達家族というわけだ。

ブラウは優秀な男だった。それまで出会ってきた鍛冶師は、使えないという烙印を押されて、家族ともども殺されていったのに、二度の失敗だけで本物に近い短剣を作り上げた。

魔女の声が聞こえていたガウナの太鼓判が押されると共に、ブラウの長男の命は助かったのである。



その長男の命は、結局露と消えてしまった。


彼が聖剣を鋳直すことに失敗したからだ。長男の血を浴びたブラウは、何かに目覚めたようだった。そういえば、その時だけ父は、魔女の祝福をしなかったような気がする。



ガウナ達は、オクタビス家に居候をしていた。


オクタビス家のリビングの写真立てに入っていた写真は燃やされた。代わりに、ガウナ達家族が聖剣を引き上げた時の家族写真が飾られた。


母は、今にも自殺しそうなオクタビス夫人を元気づけていた。同じ女性として、何か思うところがあったらしい。


『お腹の子が無事に産まれてくるように祈りましょう』と、優しく話しかけていた。ちょうど、長男が殺された後の話だ。




何かに取り憑かれたように、ブラウは聖剣を鋳直して、鋳直して、鋳直した。


「三人殺されて、やっとやる気になったのかな」


ガウナがその様子を見て言えば、父は小さく微笑んで、首を振った。


「人数は関係ないよ。大事なのは、殺してやるという気待ちだーー僕たち魔女を、殺す剣を作っているのさ」

「それは楽しみだね」


ガウナは本心からそう言った。ガウナだって男の子だ。古代の魔力が込められただけの鉄屑が、現代の職人によってどう変わるのか、とてもわくわくしていた。


「これで、姫も魔法使いもだませるようになるの?」


妹の問いに、父は頷いた。


「そうだよ。偽物の聖剣を海に沈めて、本物の聖剣の形は変えてしまうんだ。ブラウさんに頼んでるのは、君たち子供でも持てるような小刀かな」

「それって、聖剣って言えるの? そもそも、鋳直すことができてる時点で聖剣じゃなくない?」


ガウナの疑問に、父は苦笑いした。


「痛いところを突かれたな……と言いたいが、聖剣はもともとは普通の剣だったのを、魔法使いが魔力を込めて聖剣にしたにすぎない。材質は普通の剣だから鋳ることは可能だ。問題は、そこに込められた魔力だね」


父は腕組みをして、渋い顔をしていた。


「古代の魔法使いの込めた魔力は、消すことができない。結局、誰かの手にわたってしまえば、一撃で僕たち魔女の子孫を殺せるんだ」

「じゃあ、他の人の手に渡らないようにしないとだね!」


ふんすと鼻息荒くする妹の頭を、良い子良い子と撫でる父。


「そうだね。けど、英雄にだったら渡してもいいよ」


英雄。ドラガーゼ公爵家の血筋に生まれることになっている。ガウナは、自分の聖剣の絵の裏にメモがわりに書いた名前を思い出していた。予定では、一年後に生まれることになっているけれど。


「あ、そうだった! 英雄が殺してくれれば、ひとりじめの魔法は発動するんだもんね!」


妹が明るい声で言う。


「今度こそ、英雄は魔女のものだ」




ほどなくして、ブラウは聖剣を鋳直すのに成功した。父はその聖剣に魔力を注ぎ、“魔女の加護”を付与した。これを使った英雄が、魔女と同じ地獄に行くことができるように。もう二度と、生まれ変わることができないように。 


こうして、魔女を殺すことができる聖剣は、魔女を殺すこと以外に意味を得たのである。




石でできた表札を削って、父は笑った。


「今日からここが、僕たちの家だ」


……それは、戦争が終わる三日前のこと。オクタビス夫人が、産まれてきた子供の容姿を見て、子供ごと自分を殺し、ブラウが父を殺そうとして逆に殺された後だった。











恐怖による支配の跡は、王様に蹂躙された後も、きっとまざまざと残っている。


感じるはずのない潮風の匂い、波の打ち寄せる音。ガウナは、目の前の少年にそれを体験してもらいたいと思った。


“知りたい”と願う少年は、全てを知ってもなお、そんな目をできるのか。いや、できるわけがない。それをできるのは、ただ一人なのだから。

四年前の彼女の瞳だけが、舞踏会で会った彼女の瞳だけが、ガウナの希望だった。


そして、ガウナは、はたと気付いた。


「ジルト君、君、首を怪我してるよ」

「あ、そういえば」 


ジルトは、ぐいっと雑に血を拭った。手の甲は真っ赤に腫れている。クライスは容赦がない。


「いって」


顔を顰める。


「それ、誰にやられたの?」

「そこの泣き虫ですよ」


苦笑するジルト。音もなく忍び寄っていたラテラが、チェルシーを守るように立っている。手には偽物の短剣。いったいいつから、と思い、違和感に気付く。彼の方を見れば、ラテラの方を見ていた。ずっと彼が黙っていたわけは、そうだったのかと合点する。


ーーなるほど。


ディアルが殺される時、誰よりも早く声を上げた彼。ジルトと不審なやりとりを続けていた彼。疑問が氷解した。視えているのか。


思えば、ジルトがアントニーを嗅ぎつけるのも早かった。その裏に彼がいることを考えれば、合点がいく。

おそらく彼は、未来を視て、ラテラに示していたのだろうーー最善のタイミングを。


「さて、どうしたものかな」


厄介なのが目覚めていた。ジルトとチェルシーを海に行かせて試したい気持ちはある。しかし、ここでハルバを始末しておかないと、将来の脅威になり得ることはわかっている。そして、ハルバだけを殺すことは不可能なことも。


「やっぱりーー」


ここまで喋ったんだから、皆殺しか、そうガウナが考えた時。ばぁん!! と音が響く。


「ぐえっ、なんだこのデジャヴ!?」


アントニーの間抜けな声が聞こえ、


「良かった! まだ出棺はしていないようですな! 献花には間に合いますでしょうか!?」


そのアントニーを踏み潰さん勢いで入室してきた白金の髪の少女は、元気よく笑ったのであった。


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