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だらだら不本意運命奇譚  作者: 縞々タオル
私が望む終わり方
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ひとつの可能性

ガウナ君は舞踏会の時にあんなことを言ってしまったので否定できずにキレてます。

アントニーは、ぼりぼりと髪を掻いて、やる気なさそうな目でジルトを見た。


「お前さ、チェルシーにこのこと知らせないつもりだったろ?」

「当たり前でしょ。死んだ家族のことを悪く言われたら、誰だって心折れますよ」


自分の家族が純粋な被害者ではなかった。開き直っているガウナならともかく、今も自宅のあった貧民街に住む彼女の思い出を汚したくない。だから、ガウナの口を止めようとしたのに。


ジルトの顔が悔しげに歪む。アントニーはそれを見てため息。


「お優しいことで。でも、そんなの優しくないと俺は思うよ」

「なんで」

「チェルシーの顔見てみな」


言われて、ジルトはチェルシーの方に顔を向ける。意外なことに彼女がしていたのは、悲痛な表情などではなかった。


「そっか、そうだったんだ……」


彼女がしていたのは、腑に落ちたという表情。笑うでもなく怒るでもなく、ただただ事実を受け止めているかのような。


目を丸くするジルトに、アントニーは言う。


「そいつはお前と同じなんだよ。お前と同じように“知りたかった”。箱の中のお嬢さんは、無意識に(しんじつ)を求めていたのさ」 

「だから真実を教えると? 君もひどいね、アントニー君」


ガウナが皮肉げに笑った。


「チェルシーはジルト君(えいゆう)御旗(みはた)に掲げて復讐をしようとしていたんだよ。それなのに、蓋を開けてみればジルト君と、彼の父を見捨てようとしたのは自分の家族ときた。心の拠り所を壊すのは、優しくないんじゃないか?」

「それだからあんたの恋は成就しないんだよ」


アントニーは、馬鹿にするように笑った。


「そんなに捻くれてるから、あの子もあんたの前に現れないんだ」


ーー同感だ。


相変わらず取り押さえられたままだったけれど、ジルトも小さく笑った。


「チェルシー」

「……っ」


話しかければ、びく、とチェルシーの体が震えた。凪いでいた瞳が揺れて、


「ごめん、ごめんねジルト。裏切ってたのは、私の方だったんだ……」


綺麗な雫がこぼれ落ちる。チェルシーは、手の甲でそれを拭った。


「私に復讐する資格なんかないよ……だって、この男が王様を殺さなかったら、貴方は」

「一緒に海、見に行こうぜ」


ジルトがそう言った瞬間、チェルシーが目を瞬く。潤んだ瞳はとても美しかった。写真で見る海面みたいにキラキラと光り輝いて。


しかし、その瞳は細められ、チェルシーは力なく首を振った。


「……うん、ありがと。でも、海はもう見たんだ。私の中のご先祖さまが見せてくれたよ。あんまり綺麗じゃなかったな」

「誰と見るかで違ってくることもあるんだ。だから今度は、俺と見に行こう」


くだらないと思っていた学園。どこかのおせっかいな没落貴族の少女と出会った時のことを思い浮かべて、ジルトの頬は緩んだ。

思い上がった言葉かもしれないけれど、家族を亡くした同類にも、このことを知って欲しかった。


「英雄にはなれないけど、お前を救えないかもしれないけど」


……明るく笑った彼女が脳裏に蘇る。

海みたいな色の目の、もう一人のチェルシーが。


「お前と同じ世界を見ることはできるよ」


自分にしては、優しく笑えたと思う。それなのに、チェルシーは両手で顔を覆った。


「お前さあ」


アントニーに呆れたように言われて、ジルトは、自分が何かまずいことを言ったのだと悟った。


「や、やっぱり英雄になってほしいのか?」


慌てて問えば、チェルシーは「ううん」と首を振る。「英雄じゃなくてもいいや」


手を退かしたチェルシーは、笑っていた。それは、四年前の笑顔とそっくりだった。


「見に行けるものなら、見に行ってごらん」


そんな温かな空気に水を差すのがガウナである。彼は心底面白くなさそうだった。立ち上がり、聖剣をチェルシーの喉元に突きつける。


「どうせ君はここで死ぬんだよ、チェルシー。四度も裏切った一族にはお似合いの最期だ」

「いや、四度目は裏切りではないかもしれないよ」

「……え?」


それまで黙っていたレオンが、特に焦らずに言えば、チェルシーがぽかんと口を開ける。ついでにガウナの動きも止まる。


「実は、チェルシー嬢の持っている偽物の聖剣は、王宮にあった物なんだ。私は昔トウェル王にそれを見せてもらったことがある。本物の聖剣としてだけどね」 


レオンは語る。

トウェル王が、ガウナの家族と村人を殺して作った“抜け穴”に、当時の王国海軍を生身のまま投入して偽物の聖剣を引き上げさせたことを。“結界”という術がなかったトウェル王が、文字通りの人海戦術を決行する思考の持ち主であったことを。


聞けば聞くほど悍ましい人物像が浮かび上がる。ジルトは、トウェル王のことがわからなくなってきた。あの優しい掌は、偽物だったんだろうか。


「それはともかく、あれは本物の聖剣として、王宮の地下に飾られていた。ごく一部の人にしか知らされていなかったんだろうね。警備の薄い宝物庫を開ければすぐにご対面だ。さて、チェルシー嬢。君はその短剣を、どこで手に入れたのかな?」

「……焼け落ちた王宮。そこに聖剣があるって、ご先祖さまが」

「……失礼だけど、君は何を言いたいのかな」


ガウナが半眼を向ける。レオンはそれに動じずに穏やかに微笑んだ。


「可能性ですよ、宰相」

「可能性?」

「そう。ひとつの可能性です……もしも、チェルシー嬢のご家族が地下の“聖剣”のことを知っていたとしたら?」

「そうか、わざとパーティーに出席したってことになるんですね」


ジルトがはっとして言うと、レオンは「そのとおり」と頷いた。


「ドラガーゼ家を裏切ったふりをして、トウェル王の懐に潜り込み、“聖剣”を手に入れる。ジルト君と御父上が殺されそうになる直前に助ける予定だったのかもしれないよ」

「詭弁だ。そもそも“聖剣”はゴミ同然の偽物だし、本物だったとしても、それを使おうなんてことは思わない」

「おや、どうしてですか?」

「聖剣なんて、ロクなものじゃないからだ。持ち主を狂人に変える魔剣。君たちの始祖が英雄を騙して持たせたんだろう?」

「それはどうでしょうか」


魔法使いの子孫は笑った。


「最初は、本当に純粋な気持ちを持っていたのかもしれないですよ? わるい心だけを取り除く魔法の剣。それが、百万人の魂を吸って魔剣に変化したのかもしれません」

「君は性善説が大好きだね。リアリストのくせに」

「バランスが良いでしょう」

「……」 


崩れないレオンに、ガウナが折れたようだ。がっくりと肩を落とした。


「わかった。ひとつの可能性としては認めよう。チェルシーの家族は、実はドラガーゼ家の味方だったと」


投げやりな認め方だった。ジルトはそちらの方を信じたいと思った。ガウナはそんなジルトに釘を刺すように言う。


「でも、あくまでひとつの可能性だからね。それも、低い低い可能性だ」

「それでもいいです。俺は、チェルシーの家族の“良心”を信じます」


口をついて出た言葉に、言った本人のジルトのみならず、ガウナも固まった。その単語を呟くとともに、藍色の瞳が揺れる。


「久しぶりに聞いた。良心、良心か」


ガウナは立ち上がった。クライスに目配せをし、ジルトの拘束を解く。ジルトは床に座り、両手をぶらぶらと動かした……手の甲が少し腫れている。


「それなら、レトネアに行ってごらん」


声が上から降ってくる。


「“良心”を信じる君が、きっと立ち直れなくなるところだから」


不思議な声音だった。突き放すような、期待するような。


「魔女の一族が何をしたか、君に“知って欲しい”んだ」 


ガウナは屈んで、ジルトと目を合わせていた。深い深い海の色。チェルシーとは正反対な、光も差さない深海の色。


「どうして魔女が、聖剣を()()()()()()()()

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