決定権
正直言って本当に俺んちは狂ってると思うわ。まじで怖いわ、ストーカー女の執念やばすぎて身内がごめんなさいしたい気分だわ。
なに? 魔女に近づけるために金髪の女と結婚しろって、怖っ。見た目で英雄堕とそうとしてんじゃねーよ。俺には好きな女がいるんだよ。
なんてことを言い張ってたら、海の化け物を退治する羽目になりました。体のいい厄介払いだなクソが。『兄様が死んだら俺が王になりますから』じゃねーんだよ死ね、お前が先に死ね。俺が海に行ってる間に死ね。
この手に持ってる聖剣も、なんだか役立ちそうもないし? ていうかこれ、だいたい三千年くらい前の剣なのに、なんで錆びてないの? あと全体的に良くない気を感じる。
てことで、俺は他称聖剣と一緒に海の化け物を退治した。イカみたいなやつだった。たぶん揚げたら美味いと思う。
意外にも、聖剣はすごいやつで、イカに触れただけで勝手にイカが死んだ。ていうか、爆発四散した。
俺は水中の誰も見てないところですごく喜んで、聖剣万歳していたが、そこで気付いてしまった。
ーーこれ、子孫の手に渡ったらやばくね?
たぶんクソ親たちは「何も持たせないと周囲から怪しまれるから」とかいう理由で、聖剣を持たせてくれたんだと思う。でもこれが本物だとわかった途端、我が狂った家系は絶対にこれを悪用しようとするだろう。
ーーよし、捨てよう。
俺は柄から手を離そうとした……離れない。
「ふぁひへぇ?(まじでぇ?)」
喋った時、口に水が入ってきた。我ながらアホだと思った。
体がどんどんと冷えていくし、息が苦しくなっていく。思考能力が落ちるところまで落ちた俺は、腰の小刀を引き抜いた。
ーーグッバイ、俺の右腕。
沈んでいく右腕に、左手で敬礼。陸に上がったらなんて説明するかな、イカが最後の悪あがきで俺の腕を奪ってったわ、で良いか。
それにしても、俺の腕どうなるのかな。魚に食べられてなくなったりするのかな、グロっ! そんなことを思いながら、俺は陸に上がり、待機していた部下達に言った。
「あれは、悍ましい剣だ……」
やっぱりイカに剣ごととられたっていうのダサいから、カッコつけてみた。あと子孫への牽制。どうかどうか、深海から剣を引き上げようなんてお馬鹿な子孫が現れませんように!
それは、当たり前のことだった。
だってそうだろ、生きたいと願うのは、人としての当然の願いだ。
俺の世界は木箱でできていて、それを燃やそうとした魔法使いに、俺は媚を売った。そして、魔法使いと、ある契約を交わした。
結果、手にしたのは魔術。この魔術というのがクセモノで、常人には扱えない代物だと気付いたのは、手にした後。たくさんの人の魂を犠牲にしたのに相応しく、俺の胸の中では彼らの悲痛な魂が蠢いていた。
それは、食べすぎた時の胸焼けにも似ていて、何日も食べていない時の空きっ腹にも似ていた。常に吐き気がある状態で、罪悪感が胸を占めていて、眠ることなんてできやしない。
頭がぼうっとした状態で俺がしたこと。それは、何もかも投げ出すことだった。
契約? ドラガーゼ家を裏切る? そんなの知るか。俺らが欲しかったのは、あんたらの求めてるご大層な英雄なんかじゃないのに。
いつしか俺は、青い海に来ていた。
海は良い。広大で、穏やかで、何もかも忘れられそうで。
そんなふうに黄昏てた俺の横に、あの女は立ったんだ。
「貴方が必要なの」
陳腐な話だけど、それは俺にとって救いの言葉に思えた。
「私には、炎を操ることしかできないから。貴方の、その力が必要なの」
同じ異端の力を持つ者同士、魔法使いと姫に虐げられる者同士。
足りないものを補い合えると思っていたんだ。自分が犠牲にした多くの魂は、浪費じゃないと思いたかったんだ。一人の女の子を救うことで、証明したかったんだ。
だから馬鹿な俺は、あの女と契約を結んだ。
祈りの言葉が終わる。これから墓地に移動するというとき、レオンは、チェルシーに近づいてきた。
「さて、チェルシー嬢、もうすぐだよ」
「……なにが?」
「役者は少なくて良いだろう? わかる人にだけわかればいいんだから。君としては、盛大にやりたかったんだろうけれど、それでは僕が困るんだ」
本当に困ったような顔をして、レオンは言った。チェルシーは、眉を顰めた。
「貴方、いったい何がしたいの?」
「御伽噺の破壊」
魔法使いの子孫は笑った。
「実は、君と同じことをしたかったりして」
ハルバは始終口を開けていた。新聞記者達が勇足で新聞社に帰った後も。慌てふためいたダグラスの一族が、即教会から出て行った後も、大臣級の人々が城に帰った後も。
「おい、こら」
肩を叩かれる。そこには幻覚じゃない、親友が立っていた。彼はジト目だった。ハルバはどもりながら言った。
「な、なんでお前、ここにいるんだよ」
「成り行きだよ。まあ、カルキさんには色々と教えてもらったから献花できてよかったよ」
「お前を巻き込みたくなかったのに」
ハルバは額を手で抑えた。あんな派手な登場の仕方、絶対注目されるに決まっている。ジルトはケロリとして言う。
「今更な話だろ。新聞社御用達の喫茶店で、散々目立ってきたし」
「それはそうだけど」
二日前に視た光景を思い出し、頭も抱える。色々と無謀なのだ、この友人は。
「ま、それはともかく、元気してたか?」
「してたよ」
言って、ハルバは俯いた。有効な情報は、掴んでいるには掴んでいる。けれど、先程の殺人を止められなかったことが、重く心にのしかかっていた。
ハルバには、視えていたのだーーディアルが殺されるところも、フラウが殺されるところも。
しかし、それは規定された未来で、変えようがなかった。ハルバがそこからどんなに足掻いても、彼らは死ぬ。そう決められていた。
エリオットは、あの暗殺者に号令をした瞬間から、その場の決定権を握っていた。そう、あれはまさしく決定権だ。
ハルバの予知に欠けているもの。ハルバが“負けた”原因……。
「また、変なこと考えてるな?」
ジルトの声で思考が浮上した。ハルバは顔を上げた。
「ま、いいや。とりあえず、お前の力を貸せ」
「は?」
「考えたけど、それが一番早いと思ってさ。お前の力で、あのエリオットって人の予知を覆せ」
聖剣のやばさ<<<<<身内(子孫)のやばさ




