So please come to....me quickly
ガウナ君と彼女の怪文書回。
完全に見破られていた。ジルトと一緒になぜか献花をしながら、チェルシーはそう思った。
ーーいったい、いつ? どこで? なんで計画が漏れた?
エリオットと話すときは、認識阻害の結界を張って人払いをしていた。結界を張っている間は、ダグラスといえどもチェルシー達のことを視ることはできない。
考えられるとすれば。
チェルシーは、ちらりと参列客の席を見た。献花だけのグループは王城へと帰りはじめ、後に残るのは大臣と、それに値する官僚、そしてダグラスの人々だ。そこに、彼はいた。
チェルシーと同じはずの歴史の通行人。アントニー・マルクスは、チェルシーとジルトを見て訝しげな顔をしていた。ラテラは相変わらず無表情。だが、その視線はチェルシーの言いつけ通り、公爵を捉えている。
ーーてことは、違うか。
チェルシーは視線を戻した。そこには、レオンが立っていた。
「全部、わかってたの?」
エリオットが復讐を遂げるところまで。チェルシーがジルトに全てを聞かせて、その後にやろうとしたことさえ。レオンは「さあ、どうかな?」と言った。
「私に予知能力はないからね。でも一つ言えることは、皆の前でそれをやらない方が良いということかな」
レオンがちらりと横目で見た先には、平然としている公爵。
「裁判は閉廷。続きは葬儀の後にしようか。今ここで、君の出自を明らかにされたくなければね」
わざわざチェルシーにしか聞こえないように言われた言葉。チェルシーは、ぎり、と歯を軋ませた。
計画では、ここでジルトの結界だけを解いて姿を現させるはずだった。それからチェルシーは……いや、まだ修正は効くか。
息を吐く。チェルシーは頷いた。できるなら姿を現したくなかったが、しょうがない。
「わかった。大人しく故人を弔うことにするよ」
「うん、ありがとう」
穏やかに笑ったレオンは、有無を言わさずチェルシーとジルトを引き離し、二人を別々の席に座らせた。次男坊はジルトを見て、あんぐり口を開けている。そのアホ面がなんだか面白くて、まあ良いかな、なんて思えてくる。
ーーそういえば、こんな本格的な葬儀に出るのは初めてだな。
牧師が故人と、遺族に手向ける声を聞きながら、そんなことを思う。そういえば、私は、両親と妹を弔ったっけ?
ジルトはチェルシーをちらちらと見てくる。それに手を振ってやれば、殺意のこもった視線を感じた。そちらの方向を見れば、真ん中あたりの席の女王陛下によるものだった。
ーーあの子は、姫だから英雄に惚れたのかな。それとも、ジルトに惚れてるのかな。
眠たい牧師の言葉に耳を傾ける。死は終わりではなく始まり。故人の魂は、神の身許で安らぎを手に入れる。
両親と妹も、安らいでいるのだろうか。死に方がどんなであれ……炎に焼かれて痛い思いをしたとしても、安らぎを得ているのだろうか。
ーーいや、そんなことないか。
チェルシーは、自分の考えに否を突きつけた。
牧師は、聖人の話をする。神を信じ、信仰の元に奇跡を起こした聖人たち。神は見ていてくれるという言葉。それは、強烈な個だけに適用される言葉である。
結局、十把一絡げの一般人には無理な話だ。
チェルシーは持論に揺らぎがないことに安心した。
少女が手にしていた短剣を見て、あの男が来た時のことを思い出してしまった。
ガウナは、ジルトに熱い視線を送るリルウを見て苦笑した。いつのまにか貧乏ゆすりは止まっている。
レオンが葬儀続行を選択してくれてよかった。おかげで、徹夜の成果が無駄にならないで済む。
……それにしても、先程の光景。ガウナは、顎に手をあてた。
何もない空間から現れた少女。新聞社から忽然と消え、貧民街で死体を作る少女……。やはり、あの一族に違いない。口元を手で覆って、笑いを堪える。
運命から脱却したガウナにとって、ご先祖さまはただの利用できる存在でしかない。けれど、哀れな人間は、見るだけで楽しい。
ーー早く葬儀が終わらないかな。
葬儀が終わったら、いよいよあの少女のターンというわけだ。もとい。
灰色の髪の少年を見る。少年は、チェルシーと呼ばれた少女をじっと見ていた。何かを覚悟したかのような瞳で、たぶん無意識に、腰のあたりを探っていた。
ーー相変わらず、お優しいことで。
少年のやりたいことを察して、ガウナは苦笑。少女の思う壺だ。英雄は女の子に優しい。
ガウナは、故郷の海で、写真を撮った時のことを思い出した。
あの日は記念日だった。ファインダーの向こうで、幾度も呪詛を呟いていたカメラマンの男は、とある家族の長だった。彼はとても腕の良い職人だったから、生かされた。
まあ、彼も役目を果たして殺されてしまったけれど、他の村人達よりかは良かったんじゃないかな、と思ってみたりする。神の身許とやらに行った他の村人達にも自慢できるだろう。
小さな村だった。戦争してるし、人口変動なんて気にするわけないとたかを括っていたが、案外見られていたらしい。さすがに殺し過ぎたか。
おかげで同じ手を使われて、ガウナ以外の家族は家畜として見ていた村人達共々殺されてしまったわけだ。実に嘆かわしい、笑いが出てくる。
きっと自分の家族と王様が行ったのは地獄だ。そしてガウナが行くのも地獄だから、とりあえず彼女でも紹介しに行くとしようか。父と母は泣いて喜んでくれるだろうし、妹だって彼女を気にいるに違いない。祖父も祖母も、あの孫が……と感動して涙を流してくれるだろう。
そのためには、いい加減彼女を見つけなければ。とりあえず、この葬儀と少女の出番が終わったら、セント・アルバート学園の生徒情報でも調べるか。
取り止めもなくそんなことを考えながら、ガウナは気付いた。気付いてしまった。
ーーもしかして、この瞬間、一番休めているのでは!?
雷に打たれたような気分だった。ただ椅子に座って、ぼーっと牧師の慰めの言葉という名の子守唄に耳を傾ける。王城にいる時より、安らいでいる気がする。
おかげで彼女とのきゃっきゃうふふな妄想に労力を費やせるものである。
ガウナはとりあえず、砂浜で遊ぶ自分と彼女を思い浮かべた。人の魂を吸った海面は、嘘みたいにキラキラと輝いている。彼女が振り返って笑う。露出度の高い、けれど清楚な白いワンピースという矛盾の塊を着た彼女は、ガウナの願望そのものだった。袖を捲ったガウナと水を飛ばし合い、浮世のことなんて忘れて遊び呆ける。ガウナと彼女は水の中で抱き合い、彼女の柔らかで暖かな胸が押しつけられて……ガウナは逞しい想像力を発揮し……。
「……いたっ」
チェルシーとかいう少女と火花を散らせるリルウに足を踏まれた。
「なんで?」
「なんとなく」
まったく、八つ当たりも良い加減にしてほしいものである。
今日も、ラデイクは廃村の廃屋へと足を踏み入れた。
相変わらず削られている、石でできた表札。削られた先頭のOは、元々住んでいたはずの家族の苗字である。
とある家族は、ある日ぱったりと消え、代わりに銀髪に藍色の目を持つ家族が移り住んだという。その頃からだ、その村では、人が消え始めた。
『自己顕示欲です』
冷静な後輩はそう言っていた。写真立て、聖剣の絵、そして、花瓶。悪意のある者が踏み入れると割れるこれらは、全て一人の男を待ち焦がれている。
花瓶には、何も生けられていなかった。が、メイドの彼女は、割れた破片を繋ぎ合わせて絵柄を確認するや、呟いた。
『これ、桑の実ですね』
落ちたショックで留め金が外れた絵をはめ直すために一旦取り出せば、その裏には、とある三大公爵家の直系が綴られていた。飛び飛びで不思議だったが、手元の資料から、二百年ごとに書かれていると推測できた。
極め付けは。
ラデイクは、写真立てから写真を取り出した。ルクレールがまたも写真を持ち出そうとした時、彼らはそれに気付いた。
その裏には、こう書かれている。
『貴方が私を殺すその日まで』




