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だらだら不本意運命奇譚  作者: 縞々タオル
私が望む終わり方
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緩やかな自殺

チェルシーは、うっそりと笑った。


悲鳴に包まれる教会。くすくすと笑っていた黒瞳の人々も、今や予想外の、いや、予知外の出来事にすっかり動揺している。


「これが、下に降りてきてもらうって意味か?」

「勿論。人を見下してた奴らが、今度は彼に……エリオットに見下されるんだ。痛快だと思わないかい?」


ジルトは無言。まあそうだろうな、とチェルシーは特に気にしない。


「タネはね、第三者を介するところなんだ。エリオットは、別れ道を作っておいた。ディアルを殺さない道と、殺す道。最初から、暗殺者に言い含めていたのさ……何も言わなければ殺すな、号令をしたら殺せ。号令をしたから未来が変わったんだよ」

三重(さんじゅう)に雇われてたってことか?」

「いいや?」


チェルシーは首を振る。


「お金より、もっと有効なものがある」


親指で、心臓の部分を指さした。


「命だよ。殺されたくなければ殺せ。彼は、そう言われて渋々お仕事をしているんだ」

「どうしてそんなに知ってるんだ?」

「それはもちろん、私があの男と組んでいるから。暗殺者も、私が紹介した。彼は貧民街に住む腕利きだ、おっと」


走り出そうとするジルトの腕を引っ張り、口を塞ぐ。 


「まあ見てなよ。これから面白くなるんだからさ……ま、これは前座なんだけどね?」






エリオット。フラウには、どうしてもその名前が思い出せない。


彼は座り込むフラウに手を差し出し、立ち上がらせた。暗殺者は、エリオットを守るように周囲を牽制している。

ハルバがエリオットを睨んでいる。だが、何もできない。


「そう、それでいい。全員、動いたらこの女を殺す」


エリオットは微笑んで、講壇の前にフラウを立たせた。押しのけられた牧師は目を白黒させている。


「さて、フラウ伯母さん。断罪の時です。貴女は()()()と違ってまだ生きているから、話すことはできますよね? 今こそ、我が一族がしてきたことを洗いざらい話してください」


講壇を証言台に見立てているのか。お粗末な裁判だ。フラウは鼻を鳴らした。


「告解してもいいけど、判事がいないわ。これじゃ、お話にならないわね」

「いいえ、確かにいますよ」


エリオットは、教会の隅へと目をやった。フラウもつられてそちらを見るが、何も見えない。


「そして、傍聴人もたくさん出席しています。会場内の皆さんのことですよ。ああ、ダグラスはまとめて罪人だけど」


エリオットが冷え冷えとした視線を送ったその先で、何もできずにいた人々は、罪人呼ばわりをされてようやく怒る気持ちになったらしい。


「ふざけるな!」

「罪人はお前だろう!」

「この落ちこぼれが」


嘲る声もあったが、エリオットはそれを聞き流す。


「たしかに、私は罪人でもあります。なにせ、ダグラスという阿呆の一族に生まれたのですから。だからこれは、緩やかな自殺でもありますね。どのみち、こんなことをした時点で、積み上げてきたキャリアは台無し。警邏官どころか、人としても認めてもらえなくなるでしょう。ですがそれは、貴方たちも同じだ」 


彼は、満面の笑みで言い放つ。


「一緒に死にましょう。そうすれば、罪も軽くなるかもしれませんよ?」 


挑発するような誘いに、怒号が飛んでこようとした、その時。


ばたん! と教会の扉が開かれた。「そうか、助けが来たのか」と、きっと、教会中の誰もが思っていた。だが、聞こえてきたのはハイエナのごとき彼らの声。


「そうか、このことを言っていたのか!」

「葬儀で事件か、これはビッグニュースだ!」

「死んでるのは、コレシュ伯爵か?」 


スーツを着込んだ人々が、なだれる様に入ってくる。彼らは手帳とカメラを携えていた。


それに一番戦慄を覚えたのは、誰あろう、フラウを含めたダグラスの一族である。


ここでようやく、真っ黒に塗りつぶされていた未来が視えはじめたからだ。


「ああ、書記官の皆様も呼んでおきました。たくさんの方々が出席しているとはいえ、握りつぶされたらたまったものではありませんからね」


フラウには、ありありと視えた……異端が晒される場面が。異端を晒す場面が。


ーー()()()()()()()()()()()()()()()()()()






狂ってる。


人が人を裁くことも狂っているが、自分を自分で裁くこともまた、狂っている。


先程ジルトにされるがままに抱きしめられていたチェルシーは、今度はジルトのことを力強く拘束していた。なかなか抜け出せない腕に、首元に突きつけられた刃。それはやはり短剣と呼べるもので、ジルトが持っているものと同じく、切れ味が良さそうなものだった。実際に拝むことができたのは僥倖だが、こんな場面で拝みたくなかった。


「離せ」

「離したら、エリオットの元に飛んでっちゃうでしょ? そうしたら、エリオットはすぐにゲロって日和っちゃう。だからダメ」


楽しそうなのがムカつく。ジルトは舌打ちした。


「あ、舌打ちもダメだからね。ていうか、首の皮切れてるし……面倒くさいなあ。じゃあ、貴方が一語喋るごとに、この短剣で人を一人殺すから、喋らないでね」

「……」


ジルトは嫌々頷いた。チェルシーは満足そうだった。


ーー前座って言ってたな。


これが前座なら、一体本題は何なんだ? 


異様な空気に包まれる教会で、前座というには大仰な裁判が、始まろうとしていた。






一方。

ガウナは動けない人々に混じって、ショックを隠せないでいた。


ーー僕の日程調整が全部台無しになってるんだけど!?


あんなに徹夜したのに、あんなに力を入れたのに。なんだかどうでもいい内輪揉めに巻き込まれて、献花だけのグループが城へ帰るタイミングを見失っているではないか。


というか、この葬儀の警備はどうなっているんだ。エリオットがいくら手練とはいえ、多勢に無勢。数で押さえ込めばどうにかなるはず……いや、そのための新聞記者達か。ハイエナのような彼らに、皆餌を提供したくないのだろう。


動いて欲しいのは、これからよくわからない裁きをされるダグラスだけ。そのダグラスも、同胞が相手だけにやりにくいところがあるのだろう。ダグラスだけで済むならばと動かない人々の方が、圧倒的に多いことも、この場の空気の醸成に貢献している。


そして、なにより。


「不謹慎だが、気になるには気になる」

「特別扱いは気に入らないと思っていたんだ」


ガウナが言うことではないが。


ーー本家以外、人望無いんだよね、この一族。

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