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だらだら不本意運命奇譚  作者: 縞々タオル
見放し見限り、見捨てられ
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行き先

お家探訪

何かに弾き飛ばされたミュールは、すぐさま体勢を立て直し、今度こそ細剣を抜いた。


踏み込み、目にも止まらぬ鮮やかな剣技を披露するが、無意味。まるで透明な壁があるかのようにミュールの攻撃を弾いている。


「どうしようもありませんね。魔法というものでしょうか?」


忌々しそうに言うミュールは、つんつんとその空間を突く。指がそれより前に進まない。


「これが不思議なこと、ですか?」


ルクレールは、軍人時代の先輩であるラデイクに訊いてみる。ラデイクは頷いた。


「これも、そうだ。地元民は結界と呼んでいた」


ラデイクは、こんこんとそれを叩く。それはまるで、“抜け穴”を作る時のような動作だった。


「こうすると入れるんだ」


たしかに、敷地の向こうへと入ることのできたラデイクは、民家を指差しながら言った。

ルクレールとミュールもその真似をして、民家へと足を踏み入れた。




民家の中は、外と同じように血が飛び散っていた。それも相当量。


床を踏むたびに、ギシギシと音を立てる。建物自体は、きちんと老朽化しているらしい。


リビング、キッチン、ダイニングルーム。少し裕福な家庭だったらしく、それなりの広さがあった。



リビングに足を踏み入れた時だ。ぱりん、がしゃんっ!!

何かが割れる音が二回続いた。


「素晴らしい」


ラデイクは頷いた。


「私がここに来た時は静かだった」

「幽霊ですかね?」

「斬るチャンスです!」


首を傾げるルクレールに、今度こそはといきりたつミュール。割れたのは、写真立てと花瓶だった。


まず写真立てを見てみる。それは家族写真だ。惨劇が起こる前に、海の前で撮ったであろう、幸せの残滓。

潮風に髪を嬲られながら、祖母と祖父、両親と思しき人物、それと、二人の子供が笑っている。子供二人は、どちらも女に見えるが。


「どっちだ?」

「右の方じゃないですか? ムカつき度がちがいます」 


ミュールも覗き込んで、右の子供を指さす。たしかに、言われてみればこいつだけ斜に構えたような顔をしている。


「それにしても、さすがは魔女の血を引いてる家族だ。全員綺麗だな」

「ええ、でも、全員同じ色なのは怖いですね」


たしかに。全員が銀髪に藍色の目をしている。嫁だか婿だかはわからないが、外から来た奴だけは違う色をしていていいのではないか。

まるで、同じ色を持つ人物を探して結婚したような……そんな感じがする。


「銀髪に藍色の目。魔女とは正反対だな」


割れて水の溢れ出した花瓶を見ていたラデイクが、ぽつりと呟く。


「王家は魔女に近づこうとしたが、魔女の一族は、魔女から離れたかったのかもしれない」


この人はいつもこうだ。帝国兵でも、家族に売られたルクレールにも。敵味方の区別はするが、基本的に同情を忘れない。

だから、この家に踏み入れても、この人には何も起こらなかったのだろう。この人なら、写真を持ち出すなんて馬鹿な真似、考えつくことはない。だが、ルクレールは考えつく。


写真立てから写真を外し、リビングから出ようとする。家の中は結界とやらは張られていなかったはずだが、すぐに阻まれた。ばりん!!


今度は、リビングに飾られていた絵だ。その絵が落下した。


「ルクレールさん」 


非難するような目で見るミュールに、ルクレールは仕方なしに写真を写真立てに戻した。



立派な額縁に入った絵は、お世辞にも上手とは言えなかった。だが、何を描いているかは、かろうじてわかった。


「海だな。ギリア海だ」


ギリア海とは、王国南西部レトネア地方に面する海だ。つまり、ここの近くの海である。 


上半分は水色の空、下半分は群青色の海だろう。二色で塗り分けられているが、これに何の意味があるのかはわからない。海と思しき部分には、黄色と白の何かがぽつんと浮いている。


「なんだこれ? 船?」

「船にしては小さすぎますね」

「ゴミじゃないか?」


ラデイクが一番ひどいと思う。なぜゴミなど描くと思うのか。


「カメラを持ってきたので、この絵の写真を撮りましょう」


ミュールが絵に向けてカメラを向けると、ばりん!!

今度は、カメラのレンズが砕け散った。


「ひどい……おニューのカメラなのに」


泣きそうな顔をしていたミュールは、「あと三十二個しかないのに」といじけていた。それだけあれば大丈夫だろう、金持ちめとルクレールは半眼。


「この部屋から何かを持ち出そうとすると、祟りが起きるようだな」


ラデイクはそう言って、リビングから出た。


「祟られないうちに帰ろうか」






無事に敷地内から逃げおおせて、三人は一息ついた。


「私のカメラ、直ってます!」


嬉しそうにぴょんぴょん飛び跳ねるミュール。なるほど、結界の中で起こったことだから、外に出れば無効化されるのか。


それにしても、先程感じた違和感。


ーー俺の考えていることが合ってるなら。


ルクレールは、もう一度こんこんと結界を叩く。


「……行き先が違う」

「行き先?」


首を傾げるラデイクに頷き、ルクレールは“抜け穴”のことを説明した。かの偉大なる魔術師セブンス・レイクが、舞踏会の夜に作ってくれた“抜け穴”と、ガウナと一時契約した時に使った“抜け穴”。

それらは調整されていて、魔力のないルクレールでもわかるくらい、不安定な要素はなかった。が、この結界は、一言で言えば不安定だ。


……子供たちの声が聞こえ、優しい誰かの声が聞こえた。


「どうしたんですか?」

「いや」


ルクレールは周囲を見渡した。誰の声も聞こえない。気のせいだ。


もしこの結界が、“抜け穴”であるとしたなら。


こんこん。


ルクレールは、結界を叩く。外ではない、自分の内から聞こえる優しい声に耳を澄ませる。

何度も結界を叩く。声に従って、自分の中にあるものを調整していく。そして、これの行き先も。


「……繋がった」 


ルクレールは、結界の中に足を踏み入れた。

最初に感じたのは冷たさ、それから息苦しさ。


「ルクレールさんっ!!」


力強く引っ張り上げられ、ルクレールは息も絶え絶えに、地面に座り込んだ。髪を切っておいてよかった、長いままだったら、鬱陶しかっただろう。


「ありがとよ、ミュールさん」

「いえ、でも、どうして」


ミュールは困惑しているようだった。それはそうだろう。

ルクレールの全身はびっしょりと濡れていた。彼は頭を振り、水を払った。


「ヘッジ上等兵、もしや、“抜け穴”とやらの先は……」

「ええ、そうです」


ルクレールは立ち上がった。この高台から僅かに見える青。日の光に照らされて、白くきらきらと輝いている。



「この“抜け穴”の本当の行き先は…………海底だ」




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