表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
だらだら不本意運命奇譚  作者: 縞々タオル
見放し見限り、見捨てられ
141/446

生家

先輩登場回。

時は、少し遡る。



鳥が空を舞っていた。時折低く飛んでは、海面にいる魚を捕まえていく。


王国南西部、レトネア地方。軍人を退役し、質素な暮らしをするラデイク・ツァネルは、今日も魚を釣っていた。


五年前までは、魚釣りは趣味でしかなかったが、レトネアに住むにあたって極めてみようと思った。釣った魚は、自分で捌いたり、近くの都市で金に変えたりする。たまにあたることがあるが、それもまた一興。戦場と違ってのんびりと用をたせるので苦ではない。


「だから、釣りはいいぞヘッジ上等兵。お前も余生をここで過ごすんだ」

「変わりましたね先輩」


くすんだ金髪の後輩は、生意気にも遠い目をして海を見ている。さっきから彼の釣竿がぴちぴち跳ねているが、無視を貫いている。


「規律正しい先輩はどこに行ったんですか、もはやただの釣り好きおじさんじゃないですか」

「私とお前がやっていたことよりも、よっぽど益があるとは思わないか?」

「……たしかに」


苦そうな顔をするルクレール。彼は、王宮に閉じ込められていたあれを解き放ち、宰相兼公爵であるところのあれに刃を向けたので、指名手配をされている。


彼らがここに来たのは五日前。どこで嗅ぎつけたかはわからない。おそらく以前同僚に「魚釣りでもして生計を立てていく」と豪語していたからとは思うのだが。

ラデイクとしては、あれに関わりたくなかったが、見つけられてしまったものは仕方ない。そもそも、彼に全てを押し付けて消えたのは自分である。その責任はとらねばならないだろう。


だから、ラデイクはルクレールと、同伴のミュールという女性に自分の知りうる限りのことを話した。ガウナ・アウグストが何者であるか、なぜ地下に閉じ込められていたのかを。


……奇しくもここは、あの化け物が生まれた土地である。


彼は、この風光明媚な土地で育ち、幼い頃に家族と引き離された。家族の行方はわからないが、ただひとつ言えることは、ろくでもない結末であったことは確かだ。






海から少し離れたところにある漁村。都市から少し離れたそこは、寂しい村である。


「またあそこに行くのかい、懲りないねえあんたも」

「祟られても知らないよ」


すれ違う隣村の村人が、不穏な言葉を発していくのは、いつものことだ。


ラデイクは、ちらりと後ろの二人を見た。


「なんだか寒い。おかしいな」

「やっぱり、何かに見られているような気がするんですよね〜」


ルクレールは腕をさすり、ミュールは言いながら腰の細剣を抜こうとしていた。さすがにそれは笑えないので止めたが、ラデイクはアテが外れていなかったことを喜んだ。


そこは、ラデイクが行ってもただの廃墟であり、地元民が言うような不思議なことは起こらなかった。だが、後ろの二人は明らかに何かを感じている。霊感があるという奴だろうか。いや、この場合は。


「あのドブネズミを見た時と同じような、そんな感覚です。汚らわしい」


ドブネズミがあれを指すのなら正解だ。なぜなら眼前に見えてきた、柵で覆われ鉄線が張り巡らされた異様な村が、彼の生まれ故郷であるからだ。


「何ですか、これ」


ルクレールが息を呑む。自分が初めて見た時もそうだったな、とラデイクは苦笑。


「ここには、公爵の生家がある。着いてきたまえ」 


そう言って、一部切断された場所から村へと足を踏み入れた。ルクレールとミュールも同じようにして入る。


「私も、あの仕事は先輩から紹介してもらったクチでね。その先輩が話してくれたのが、君たちに話したことだ」


木造の民家は、多少潮風で傷んでいるが、人が住んでいた時そのままに残っている。跡形もなく消えたのは、人だけである。


「かつてここでは、猟奇的殺人事件があった」


とある民家の前で立ち止まる。そこの外壁や、錆びたポストには、夥しい錆びた赤が塗りたくられていた。


「血……」


ミュールが呟くのを聞いて、ラデイクは頷いた。


「そう、この血こそが当時の事件の名残り。ここに住んでいた家の者が虐殺した村人の血だと言われている、が、真相は違うらしい」


ラデイクは、表札に手を添えた。石でできた表札。彫られていたであろう苗字がズタズタに傷付けられていて、判別できない。唯一わかるのは、最初のOという文字だけである。


「本当は、この村ごと消されたのだと、先輩は言っていた。ガウナという人物がいなくなったことを悟られないように、家ごと、村ごと殺したんだ」

「英雄の餌になる魔女の生まれ変わりを手に入れたら、他は用済みだったわけですね」


同情という言葉のカケラもない表情で、ルクレールもまた表札を見た。


「俺が気になるのは、ヤツの可哀想な生い立ちじゃない。ヤツを殺す方法だ。だが」


Oの部分をなぞった。


「なんで、Oなんだ? 苗字が違う」

「アウグストは、人買いが与えた苗字だからだよ」

「……」

「王国海軍によって村を襲われたガウナは、海軍にいては目立つから、戦争終結の混乱当時、ざらにあった人買いに預けられたんだ。王宮に輸送するから、売れはしないが、客寄せにはなったらしい。その出来事も、おそらく彼の人格形成に関わっているんだろうな」


語れば語るほど、彼の人生は悲惨なのである。だから、ラデイクは監視任務を放り投げた。何かをやってくれそうなルクレールに、勝手に託して。


そのルクレールは、ラデイクの言葉を否定した。


「いえ、あれの性格は、もともとのものだと思いますよ、先輩」


友を焼かれ、愛する人を焼いたルクレールは、断罪の口調でそう言った。ラデイクには、そうであれと願っているようにしか見えなかったが。


「あのドブネズミが、魔女であろうと魔女じゃなかろうとどうでも良いじゃないですか。魔女であったなら万々歳、政治的失脚以外に殺すアプローチを見つけられるのなら」


そういえば、このお嬢さんはガウナのことを最初からドブネズミと言っている。それも不思議な話だ。


「さ、行きましょう。幽霊が出ても何が出ても、もう一度殺してやるまでです」


頼もしい言葉とともに、彼女は家の敷地に足を踏み入れ、ようと、し。


「きゃん!?」


派手に弾き飛ばされて吹っ飛んだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ