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だらだら不本意運命奇譚  作者: 縞々タオル
見放し見限り、見捨てられ
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ナイフと少女

第一印象最悪なヒロインが好きです(ネタバレ)

わるい魔女になってしまったローズを退治すべく、アルバートは英雄として立つ決心をしました。


しかし、アルバートは、ローズのように魔法を使えません。そこで、彼がたよったのは、名も知らぬ魔法使いでした。


彼はとてもひくつな人間でしたが、アルバートのりっぱな心に触れていくうちに、このひとの役に立ちたいと思うようになりました。


魔法使いは、アルバートに短剣をさずけました。


『これで魔女の心臓をひと突きしたら、彼女のわるい心だけを取りのぞくことができます』


アルバートはとても喜びました。涙をながして、魔法使いにかんしゃしました。


そして、こうも思ったのです。


『やっぱり、ローズは悪いものにとりつかれていたんだ。これで彼女をたすけることができる』






くるくるとナイフを回そうとして、床に落とす。


「うわっ!?」


鞘付きとはいえ、怖いものは怖い。ジルトは飛びのいた。イメージ的には舞踏会のルクレールだったのだが、それには程遠い無様さだ。


床に落ちたそれを拾う。


なぜかクライスが返してくれたナイフは、絵の具を削っただけで、特に役立つことはなかった。

それでも、ジルトはこのナイフを気に入っている。鈍く光る、装飾入りの柄。刃こぼれ一つない刃は、キラキラと照明を反射していた。


これは、偶然会った骨董商の少女が、ジルトに格安で売ってくれたものである。 


『吠え面かかせてやるといいよ。ふふっ』


悪戯っぽく笑った少女は、深くフードを被っていて、よく顔が見えなかった。 


『人が人をどうにかしようなんて、馬鹿げてる。そう思うよね、ジルト?』


不思議な少女だった。こちらの名前を知っているし、スピレードのことを知っているようにも思える。何より……なんだか、懐かしいような気がした。ジルトが少女に何者なのかを尋ねると、少女は少し考え込んで言った。


『ただの一般人だよ。通行人Dだと思ってくれたら良い』


通行人は四人いるのかと訊いたジルトに、少女はただ笑うだけ。


『そういう意味じゃないよ。でも、強いて言うなら、三人かな』


謎かけをふっかけられたジルトは、ナイフのお礼だけを言って帰ろうとし。少女の真剣な声に、足を止める。


『君だけは、見捨てないって信じてる。ね、四年前の続きをしよう』


そう言って、少女はジルトの目の前から消えた。そう、読んで字の如く消えた。あれは、魔法か魔術である。




このナイフを持っていれば、きっと彼女に会える。そんな気がした。

ジルトはナイフを懐にしまう。ふと、部屋の中を見回す。


「……気のせいか」


頭を振って、部屋を出た。






応接室にいたのは、なんだか気難しそうな壮年の男だ。短い黒髪に口髭、ジルトもよく知る人物に少し雰囲気が似ている。


「よく来たね。座りなさい」

「は、はい」


来たのはそっちの方では? というツッコミすら入れる余地がない。鋭い眼光は、ジルトの一挙手一投足を見逃すまいとしていた。


「……」


めちゃくちゃ気まずい。ジルトのことをじっと見てくる男……ハルバの父、現外務大臣カルキ・ダグラスは、出されたコーヒーに砂糖を入れていた。


「……あ」

「何だね?」

「いえ、なんでも」


これで十九杯目です、そんなに甘党なんですか、とも突っ込めない雰囲気である。


「甘いの、お好きなんですか?」

「いや、そんなに好きじゃなかったな。よく考えたら」


ーーじゃあなんでそんなに砂糖入れてんの!?


もはやコーヒーの砂糖漬けである。それはそれで美味そうだから良いのだが。それにしたって量があるだろう。


砂糖壺が空になり、かしかしとスプーンで底を引っ掻くようになってから、ようやく気付いたらしい。


「緊張からだ、砂糖を無駄にしてしまった」 


真顔でそう言って、カルキはコーヒーの砂糖漬けを一気に飲み込んだ。ジルトは見ているだけで、胸焼けで死にそうだった。


「甘くないんですか……?」

「全く」


確かに、平気そうな顔をしている。


「敗戦処理をできたところで、本題に移ろうか、ジルト君」


外務大臣のギャグはよくわからないが、ジルトは背筋を伸ばした。


「これから話すことは、我が一族の罪に関することだ」




 


たん、たん、と。


珊瑚色の珍しい髪に、浅い海を思わせる青緑の瞳。色彩豊かな彼女は、とてもご機嫌だった。


王都ソマリエ、大通りという華やかな場所から遠く離れた、貧民街の石畳の上。まるでダンスをするみたいに、ステップを踏んでくるくる回る。


独りよがりな踊りではない。相手がいるかのような踊り。

彼女の青緑の瞳には、確かにその光景が映っている。


「忘れさせなんてしない。魔法使いはみんな、みーんな許さない」


夢見る口調。だが、微笑む唇から紡ぎ出されるのは、薄暗い呪詛である。


「お姫様も絶対に許さない。魔女の話をして、失望させてやる」


たん、たん。


少女の足元には、青く光る魔法陣。けれど、まだ完全じゃない。


「私を救えるのは貴方だけ。なーんてね」


ダンスの終わり、しばらく余韻に浸っていた少女は、背後を振り向く。

そこには、亜麻色の髪の少女がいて。黄水晶の瞳は、どこか悲しそうに見えた。


「貴方も私を見捨てるって、知ってるんだから」


少女の声は、虚しく響いた。


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