手紙
少年が去っていった部屋。こんこんとひかえめのノックが聞こえた。
「どうぞ。彼はいないよ」
ガウナが答えると、金髪の少女が部屋に入ってきた。
「……」
無言で、先ほど少年が座っていたソファに座るリルウ。無表情ながらも、どこか恍惚としている。ひたすら無言。
「……あの」
耐えきれなくなったガウナが声をかければ、冷え冷えとした紅い瞳が向けられた。
「貴方に忠告しにきたの。お兄様に何かしたらーー殺す」
ソファを撫で撫で。たぶんあれ、無意識なんだろうなとガウナは思った。
「クライスが、クッキーの感想を教えてくれたわ。美味しいと言ってくれたって」
「よかったね。がんばっていたからね」
今朝からリルウが城の厨房を占拠していたことを遠い目になりながら思い出し、ガウナはおざなりに祝福してあげた。
このコミュ障陛下、お兄様のこととなると、厨房の料理人と交渉したりと行動的になるのだ。
「私がはじめて作ったクッキーは、材料は良くても、不恰好だったと思うわ。でも、お兄様は、そんなこと気にせずに食べてくれた。そんな優しいお兄様に危害を加えようなんて、もちろん考えてないわよね? そんなことを考えていたら、貴方の人生、終わらせるから。彼女に会うことも叶わず、ね」
「重々承知しているよ」
彼とリルウは、契約を交わしていた。
「しかし、会ったばかりの少年に、そこまで懸想できるとは」
「似ているのよ」
リルウは、寂しげな笑みを浮かべていた。
「昔、私に優しさを教えてくれた、お姉様にね」
翌日。
ジルトは朝から、学園の寮部屋で、手紙を書いていた。
「えーと、師匠のことを喋ってしまいました。ごめんなさい、でもあのことは喋ってません。今度会った時に土下座をします。これでいっか!」
何も良くないのだが、ジルトは満足そうに頷いて、便箋を封筒に入れ……、
こんこん、と扉がノックされた。
届いたのは、差出人の書いていない手紙。だが質の良い紙であることは明らかで、この手紙を差し出した人物が、それなりの地位にいることはわかる。
少女はため息をついた。また、いつものことで言われるのだろうか。
朝から嫌な気持ちになってしまった。でも大丈夫。今日は、学園で授業がある。彼に会える。
「でも、絶対に、巻き込まないようにしなきゃ……」
窓から差し込む朝日が、彼女の青い瞳をきらきらと輝かせた……。




