公爵の誤算
腹の底から、笑いが込み上げてくる。
こんなにも面白いのは久しぶりだ。
ーー惜しい、惜しかった!
だが、肝心の結論が違う!
「ふ、は、はっ……何を言い出すかと思えば、まるで、私が薔薇の魔女を信奉する人物かのような言い様だ。リルウが薔薇の魔女だって? ははは、面白いことを言うね!」
「そうとしか考えられません。俺は、リルウ陛下を薔薇の魔女として利用するつもりなら、俺にも考えがあるということを伝えにきたんです」
「考え? 一介の学生の君が?」
ガウナはジルトを見た。冗談を言っている顔ではない。その真剣な瞳の色は、初めて見た時と同様、やはりガウナに好ましく映った。ので、ガウナは、ジルトにある答えを提示して丸め込むことにした。
「私は、不穏分子を排除したかっただけだよ。確かに、アルバートの物語で、それを想起させるという目的はあった。薔薇の魔女という、それこそあやふやなものを信じている集団を炙り出すためにね。自分で言うのもなんだが、結構な忠臣だと思うよ」
だから、命懸けの推理をやめろーーそう続けようとした、その時。
「じゃ、俺の師匠の推理はハズレですか。残念。
でもま、俺にも考えがあるっていうのはハッタリだったので、安心したような悔しいような」
そう言って、脱力した様にソファにもたれかかるジルト。どうやら、ガウナを追求することはやめてくれそうだ。
だが、安堵と共に、少し引っかかりを覚えた。
「君には、師匠がいるのかい?」
てっきり、ジルトの推理だと思っていたそれが、他人の推理とは。惜しい推理をした人物が気になった。
ジルトはすっかり気の抜けた声で、「そうです」と返事した。
「セブンス・レイクっていう男です」
紡がれた名前に、心臓が止まりそうになった。目の前の少年は、それに気付いているのかいないのか、ポツポツと語り始める。
「俺は、四年前、王都が焼け落ちた時に家族を失いました。孤児だった俺を拾ってくれたのが、師匠です」
「彼は確か、王家お抱えの宮廷魔術師だったね。魔法が途絶えたこの時代……最後の魔術師とも言われていた」
「そんな話を自慢げにされましたけど、もう耳タコですよ。で、さっきの推理ですけど、戴冠式についての新聞記事を読んだ師匠が言ってた話なんです」
そこまで聞いて、ガウナは悟った。
ーーどうやら、僕の目的は筒抜けらしい。
あの男は性悪だ。真実が分かっても、それを語ろうとはしない。むしろ違う情報を教えて、人が踊るのを喜んで見る男である。
王都の火災の被災者であるジルトにも、もっともらしいことを吹聴して、楽しんでいたに違いない。
セブンスは、ガウナの過去を知っている。それどころか、ガウナは彼によって命の危機に陥れられ……彼の気まぐれによって生きながらえた。
あれほどの脅威は、生きている者に限定するならば……ガウナの人生において存在しないだろう。
ジルトは何気なしに言ったのかもしれない。けれど、その名前ひとつで、ガウナに危機感を抱かせた。
誤算だった。招いた少年が、死神と等しい人物の名前を連れてくるとは。
次第に師匠の悪口に変わっていくジルトの話を聞きながら、ガウナは、次に打つ手を考えていた。
公爵戦第1ラウンドお終いです。勝者師匠。
次はメインヒロインのターン!




