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だらだら不本意運命奇譚  作者: 縞々タオル
一人遊びのお姫様
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勿体ないけど

自分は完璧な人間ではない。


それは、ガウナの純然たる自己評価だ。だから、彼は努力をし、欠点をなくそうとした。


王国内部の人事もそう。


四年前、高位にあった主要な人物は炎に消え、残った優秀な人材は、大半がスピレードの“教え子”達だった。

それはそうだ、後に知ったことだが、あの誕生パーティーに出席をしていない人々は、トウェル王に反感を持っていた人々なのだから。


故に、いかに優秀な人材であろうと、ガウナにとっては諸刃の剣。まさに、もったいない“人材の墓場”だった。




転機は、『魔女の信徒』の会合だ。


絵を描くことを趣味とし、できれば生計を立てて行きたいと語る青年は、王城内部の“教え子”たちと同じ目をしていた。


それにガウナは興味を持った。同じ目をしているのに、彼には……サイネルには、生気を感じたからだ。


話すうちに、彼は本当に普通の青年であることがわかった。彼が生まれた実家は焼けたらしいが、どこか清々しそうだった。


『これでやり直せる、そう思ったんです』


図らずも、ガウナは一人の青年を救っていたわけである。


ーーこれは“実験”に使えるな。


ガウナはそう思った。サイネルは、魔女の生まれ変わりであるガウナに、とても好意的であり、都合がよかった。

もちろん、ガウナは彼の内面を見ることも忘れなかった。絵を描くことの根底にあるものは何か。突き詰めれば、それは、“必要とされたい”という欲求からだった。その欲求を認めてくれたのが、スピレード。だが、スピレードは彼を突き放した。それは、サイネルも心のどこかでわかっている。


それがわかれば十分だった。ガウナはサイネルの出生を調べ上げ、それと合わせて、彼が“吹っ切れた”と思った部分を、丁寧に、丁寧にめくりあげ、彼の傷口を開いていった。

その一方で、自分は彼を見捨てないという認識を植え付ける。これは、魔女とガウナを同一視していたから、比較的簡単だった。


サイネルがガウナのことを「先生」と慕い始めた頃だ。

その頃にはもう絵を教団内部に飾るよう言いつけていたが、やはり人が人をどうにかしようなんて烏滸がましい。もっと楽な方法はないのかと神であるペルセに言ってみたら「洗脳の魔法なんて無えよ。お前らの専売特許だろ」と、実に一歩引いた返答をされた。


まあそれもそうか。


地道にやっていくしかないと思い始めた矢先、やっと彼が壊れてくれた。その壊れた理由というのが、「金を渡さないと絵を飾ってくれないのが辛いです魔女様」という、ガウナにとっても辛いものなのだが。まあいい、あれは、“彼の絵”だ。




そんなわけで、人材不足に喘ぐ彼の……リルウ政権は、サム青年の尊い犠牲によって、光を見出したのである。すなわち、スピレードに“洗脳”された人間を“洗脳”すること。


スピレードは見る目がないだけで“育てる”ことに関しては一流である。つまりは、スピレードが耕して種を蒔き育て、収穫までした作物を、ごっそり貰い受けることをする。


サム青年という一応の“成功例”があったので、彼の“教え子”達を籠絡するのは拍子抜けするほどに簡単だった。

特に、四年前に生き残った罪悪感を刺激してやることは、国民を守れなかった軍人の“教え子”には効果的だった。これは、ダグラス家の次男坊を揺すった時に使った手である。


施療院を焼いた時に炙り出したスピレード側の不審な動き。彼自身も有能には有能なので、できれば反乱は起こしてほしくなかったが、しょうがない。死んでもらうしかない。


ーー保険は掛けてある。準備は万全だ。






優位に立った銀髪の公爵は、こちらに近付いてくる。


スピレードの“教え子”達を引き連れながら。


「僕の素敵な企みを邪魔した貴方には、どんな罰が相応しいか、考えていたんですよ」


なぜかジルトの方を見ながら言う。ジルトは思いっきりガウナを睨んだ。ガウナは肩をすくめた。やれやれという風に。


「まあ、結果的には良かったかもしれないですが……貴方への罰は、自らの“教え子”に殺されることです」

「……くだらないな」


吐き棄てるように呟き、スピレードは手に持っていた杖をすらりと抜いた。それは、刀身を伴っていた。

彼を守るように、前に出ていた黄水晶の瞳を持つ少女の頭を撫でる。ガウナは、微笑ましいものでも見るかのように目を細めた。


「その子、相当お気に入りなんでしょう? 可愛いですからね、僕の彼女に比べたら劣るけど」

「その言い方だと、調べてあるんだね」

「ええ。貴方が、そこのラテラちゃんの家族を皆殺しにしたことは、すでに存じてますよ」

「……そうか」


スピレードは、そこで少し黙り。



不意に、肩を震わせて笑い出した。ガウナは何も言わない。




「君は、本当に節穴だねぇ」




相変わらず表情は見えない。ぞっとするような声が、彼から漏れていた。



「私の“教え子”は、そんなに柔じゃない」



誰かの舌打ちが聞こえた。


「やりなさい、ノーデン君」

「はい、シリウス先生」


穏やかに言い放った彼に呼応する、一人の青年は、一番最初にガウナに飛びかかった。


それを合図にして、兵士たちがぐるりと向きを変える。その統率の取れた動きは、()()()()()()()()()()()動きだ。


あっという間にガウナを取り押さえ、スピレードの前に引き摺り出した。合流した後方勢力も、この謁見の間に集まってくる。


ノーデンと呼ばれた青年に引き倒されたガウナを、スピレードは憐憫の混じった表情で見下ろした。


「残念だったねガウナ君、あらゆる意味で」

「ええ、残念です。やはり、プロには敵わない」


床に引き倒されたガウナは、なぜか笑っていた。ジルトは、肌が粟立つのを感じた。


()()()()けど」


指を鳴らす音。ガウナの横たわる床に描き出されたのは…………


「逃げろ!!」

言いながら、ジルトはスピレードを引き倒す勢いで後方へ引っ張る。ばくばくする心臓を押さえつけ、ガウナの方を見た。


ノーデンが、喉を掻きむしっていた。その凄惨な表情からは、あらゆる痛み、恐怖が、ありありと伝わってくる。


「先生、にげ……」


目を見開いたまま、ノーデンはどしゃりと床に倒れた。いつかに見た、青い輝きを持つ魔法陣は、彼を不気味に照らし出していた。その死体を足蹴にして、ガウナはジルトに称賛を送る。


「いい判断だったよ、ジルト君」


ぱちん。ガウナが指を鳴らせば、魔法陣は消え失せる。そして、彼の足元には灰が一山。


「でも、一人死なせてしまったね?」

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