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だらだら不本意運命奇譚  作者: 縞々タオル
一人遊びのお姫様
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実験

シリウス・スピレード。


元内務大臣にして、元侯爵。そして、元王国陸軍参謀本部長の肩書をもつ。

四年前、内務大臣になる時に退役をしたが、その影響力は絶大であり、“教え子”たるノーデン・ヒュラムが、現在参謀本部長として活躍している。




これが、公爵の力が及ばない範囲である。


実際、公爵が施療院を焼いた時は、事件自体からは話が逸れたが、穏健派の公爵らしくない世論の持って行き方だった。

一昔前の王の統治、それはいい。問題は、その後。帝国への憎悪の部分だ。基本的にリルウ政権は内向きの政権であり、停戦状態の帝国に触れることはあまりない。

それなのに触れたのはなぜか。施療院という、元軍人を収容する施設の関係上、出張ってきた人物に忖度するためである、と推測できる。




馬車に揺られながら、ファニタはハルバにそう説明した。


「つまり、スピレードは公爵とスタンスが違うが、無視できない相手だったわけだな」


ハルバがまとめると、ファニタは頷く。


「そう。現在政権を支えているのが、スピレード元内務大臣関係者ばかりだから、公爵は彼を切るに切れなかったってわけ」

「今までは忖度しつつやってたんだけど、スピレードがバカむす……アントニーをけしかけて、亀裂が走った」


ファニタに睨まれて、ハルバが言い直す。


「なるほど、公爵が忖度してた相手……だからジルトが接触したってわけか」

「うまくいけば、公爵へのカウンターになり得るからね。アントニーさんも助けることができれば、どこかの自己嫌悪を拗らせてしまったダグラス家の誰かさんも、救われるだろうし」

「……あの、アドレナさん」


ハルバがひくりと口元をひきつらせた。


「怒ってらっしゃる……?」

「二人にね。ヘッジ子爵を唆した何者かを憎い気持ちはわかる。その点は、貴方と同じ。だけど」


ファニタは、深い深いため息を吐いた。


「……な人を危険なところに飛び込ませるの、どんな気持ちだと思う?」


そう呟き、次には拳を握る。


「アイツ、貴方のことしか喋んないのよ……ひどくない」

「それはひどいな」


そんなことを言うハルバは、微妙に笑っていた。


「最初はせっかく助かった命だから、みたいなことを言ってたのに、いつのまにかハルバ、貴方の話になってて、ぎゃふんと言わせてやりたいから行ってくるって。アイツなら気付くと思うから、気付いたら死ぬ前に助けに来てくれって」

「なんでそんなギャンブルみたいなことを……」

「信頼されてるのよ」


戸惑うハルバに、ファニタは薄く笑ったが、ハルバの次の質問には凍りついた。


「でも、なんでスピレードと接触できたんだ?」

「それは……」


話していいものか、ファニタは言葉に詰まり、結果、誤魔化す方向へ。


「偶然よ、偶然!」


その慌てぶりに、ハルバは少し考え込み、ジト目になった。


「わかった、例の怪しい警邏官だな」

「う」


今度は、ハルバが機嫌を悪くする番だった。


「親友の俺に頼らず、どこの馬の骨かわからない予知能力者にスピレードの居場所を予知してもらったわけだ、ジルト君は」

「あのね、ハルバ……」

「ふーん、そっかー。へー」


爽やかながらもわりと闇が深いのが、目の前の少年である。


「そんじゃ、これから()()()()()で会えるってわけだな」

「そ、そうなるわね」


ファニタは曖昧に笑った。これ、ジルトがぎゃふんと言わせられるパターンじゃないんだろうか。悪どい笑みを浮かべるハルバを前にして、密かにそう思うのであった。






自分は神様に愛されている。


アレリア監獄から脱獄した男は、心の中でほくそ笑んだ。


「ちょうど、君みたいな人が欲しかったんだ」


スピレードという危ない人物が、ガキどもと踏み入ってきた時はもうダメかと思ったが、その後の混乱に乗じて、誰かが助けてくれた。誰かが誰かって、そりゃ。


男は、神様みたいな彼を見た。長い銀髪をゆるく束ねた青年は、藍色の瞳を細めて笑っている。


男は、その青年に見覚えがあった。四年前はぽっと出の英雄気取りのクソ野郎という感想だったが、今はもう一段階上の評価をしてやってもいい。あの天災にも匹敵する人災を経験したら、そう思う。


ほら、芸術的センスも優れていらっしゃる。ここは青年のアトリエらしく、一つの壁に一つずつ、絵が飾られている。それ以外は何もない。青年と男だけ。何が重要なことを話すんだろうか。


ああ、あの人災を起こした爺さんをぶっ殺せだったら、喜んでそうする。男は犯罪ならなんでもやったからだ。だから、アレリア監獄にぶち込まれたわけだが。


「本当に良かったよ。君みたいな人がいて」


微笑む青年。


「君みたいな奴を殺しても、なんの後腐れもないからね」

「……は」


褒め言葉かと思っていたら、侮辱だった。ぽかんとする男。青年は、指を鳴らす。途端、青年の足元に浮かび上がる、何かの模様。


「“説得”する価値もない。生かす価値もなくて、死ぬ価値だけがある。どこかの優しい誰かと、僕の大切な大切な子は悲しむだろうけれどもね」

「あ、がっ……」


男は喉を掻きむしった。必死に青年の、公爵の元に行こうとするが、力尽きて倒れ伏す。彼が最後に見たのは、青く光る光景だった。






ぱちん、と指を鳴らせば、足元の魔法陣が光を失い、消えていく。ガウナは、うんうんと頷いた。


「いい出来だ!」


男の死体のそばに来て、呟く。


「魔女にも選ぶ権利はあるんだけどね」


正直言って、こんな栄養にならなそうな人間の生命力はいらないのだが、殺した以上は証拠隠滅し(責任を取ら)なければ。こつん、と靴の先で軽い祝福。男の姿は灰になる。


「……まあ、消化してしまえば変わらないか」


自分に言い聞かせて、ガウナはそれはともかく、と気持ちを切り替える。

“実験”は成功。後は、本番に臨むだけ。


「魔女様」


実験といえば、こちらも部分的には成功か。ガウナは、部屋に入ってきたブロンドの髪の青年に向かって微笑んだ。


「ご苦労様、サム君」

「魔女様、ありがとうございます。殺してください」

「大丈夫。もうすぐ、君は僕の糧になれるんだ」

「嬉しいです。やっと死ねるんですね」

「そう。君だけは、別の殺し方をしてあげよう。炎で焼くのはどうかな?」

「ありがとうございます。殺し方は、なんでもいいです」


その答えに、ガウナは「やっぱり向いてないか」と自分の才能の無さを嘆いた。


「これじゃ、すぐにダメになる」


頭を抱え、これから殺す老害の名前を呟き始めたサム青年に、ため息を吐きながら。


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