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だらだら不本意運命奇譚  作者: 縞々タオル
一人遊びのお姫様
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絵画

久しぶりに登場した

画家志望だという青年は、今日も昼過ぎに、シンスに貢ぎ物を届けに来た。

シンスは良い教祖面をしてそれを受け取った。そして、いつものように、青年の見ている前で、青年に言われた通りに絵を飾り。


「赤以外も使えや!!」


などと、教祖室で一人の時に叫んでしまった。


「怖えよなんだよあの絵!? なんで全部が全部赤いんだよ!? 精神どうにかなるわ!!」


以前ここに来た灰色の髪の少年に、「もうちょっとこう、おとなしめの絵が欲しいですね」と言われた時、シンスは激しく内心で同意していた。

廊下を通るたびにちらつく赤、赤、赤。基本的に『魔女の信徒』の本拠地は片廊下で、外側が壁になっている。内側が会合用の部屋だったり、休憩室があったり、今シンスがいる教祖の部屋だったりするのだが、もはや絵に囲まれている状態だ。


シンスは嫌々外に出て、絵を見て回っている青年が帰ってくるのを待った。待ちがてら、教祖室の真ん前に飾ってある絵をじっくり眺める。


陰鬱。

その一言に尽きる。炎をモチーフにしているのだろうか、生涯一つのモチーフしか描かない作家もいるにはいるが、キャンバス全面に塗りたくられた赤はどうやって差異をつけるつもりなのだろう。


こいつ、大成しないな。シンスは密かに、左手からやってくる青年を見てそう思う。


だが、『魔女の信徒』は夢見る奴の味方であり、そいつらを食い物にしている。教団本部を擬似的な個展会場として貸してやるのも悪くはないだろう。なぜかこの絵、信者には好評だし。 


貢ぎ物である絵は正直いらないが、この青年……サム・ステイチュートは貴族の道楽息子なのか、絵と共に金を持ってくるので、完全には断れないところもある。


サムはシンスに頭を下げた。


「ありがとうございます、教祖様」

「頭を上げてください、良いのです。貴方の信心の心が描いた絵を、他の信者にも見せてあげなくては」


ーー精神汚染されそうだけどな!


心の中ではそんなことを思う。そんなことを知らないサムは、ぱあっと顔を明るくして、嬉しそうに笑った。


「そうですよね、この素晴らしい絵を、できるだけ多くの信者に見せてあげたいです」


ーー自画自賛かよ。


サム青年、最初に絵を持ってきた時から思っていたが、時折今みたいにトランス状態に陥ることがある。自分で素晴らしい絵とか言っている。


「この、炎に焼かれてみたい……」


ほらだめだ、うっとりしてるもの。サム青年、絵に頬擦りしそうだもの。


「“我ら魔女の信徒、たとえ身を焼かれても、魔女の炎の糧と成らん”……」


適当にでっちあげたドM教義を口ずさんでくれるサム青年の瞳は、昏かった。


「教祖様の教えは、とても素晴らしいです。感銘します。そこまでの自己犠牲精神を持ってらっしゃるとは」

「ええ、魔女様は、身を尽くすに値するお人でいらっしゃいますから」

「……()は、そんなことできない」

「……」


聞こえなかったフリをした。サム青年は、自分の言ったことに無反応でいてくれるシンスに、恥入ったような顔をした。


これがトランス状態の最後。正直言って、この青年の本当がどこにあるのか、シンスにはわからない。


だが、一つだけわかることがある。


ーーボロい商売だぜ。


金貨の入った袋を放り投げながら、シンスはサム青年の後ろ姿を見送った。






さて、サム青年はというと、一度自宅に帰り、『魔女の信徒』から遠く離れた店へと、“自分の絵画”を届けにいこうとしていた。


大きなキャンバスを担いで、馬車に乗る。

使命を背負って、馬車に乗る。


()にはできないけど、私にはできる」


やはり瞳を混沌の色にして、サム青年は呟いた。






その絵が届いたのは、ジルトがスピレードに勧誘を受けている時だった。


「おや、随分早いんですね」

「夕方の時の絵も見ておきたくて」


いかにも貴族の道楽息子という感じのブロンドの男が、店に絵を運び込んできた。ジルトは、スピレードとの会話を一旦整理するためにも、その光景に興味がある振りをした。


「……赤」


スピレードが呟いた。たしかに、運び込まれた絵は、今店にあるものと同じような赤だ。


「ジルト君、私は、もう一度後継者を育てたいんだ。四年前、炎は私の“教え子”をたくさん連れ去った。私は幸いにも王宮にはいなかったが、あの生き物のような炎は、容赦なく“教え子”たちを焼いていった……」


スピレードの方を見れば、静かな怒りを瞳に湛えていた。カタカタと、ティーカップが震えていた。


「あの子達が生きていれば、帝国兵を何千何万と殺せたというのに……!」


相容れないな、とジルトは思った。この人が抱いている理想は、とても大きすぎる。公爵を殺したいと思うジルトの理想とは、あまりにもスケールが違う。


「どうして、帝国兵を殺そうと思うんですか?」

「王国を守るためだよ」


あまりにも簡潔な答えだった。  


「そのために、私は孤児に“投資”するんだ。誰も望まない彼らに、意味を与えてやるんだ」

「この子も?」


左隣の少女を見て問えば、スピレードは頷いた。


「赤子の頃から、“孤児院”に捨てられていた。ミラ君によく懐いていたよ」


ジルトの脳裏には、ルクレールを諌める彼女の笑顔が浮かんでいた。

死んでいい人間なんて、この世に一人もいない。その言葉は、スピレードの“後継者”であったが故の言葉なんだろう。同時にミュールの殺意満々の笑みも浮かんできたが、あれは除外。


「俺には、“殺させる”ことができるとは思えません」

「そんなことはないよ。君なら、その子をうまく使える。現に、その子はパフェを食べる時に、私ではなく君の許可を得ようとした。十分素質はあるよ。それに」


スピレードは、ジルトの瞳を覗き込んだ。


「君の瞳は、まさしくアルバートの瞳の色なんだよ。若草より成熟し、世の中を知り始めた色だ。外にいる“落第生”が君を守ろうとするのも、わかる気がするよ」

「落第生?」

「そう、哀れな英雄信者だよ。さっきから、私を睨んでいる」


苦笑するスピレードは「もっとも、別のことでも恨まれているだろうけれど」と言った。


「君はその瞳を持つ限り、誰かに縋られる運命にある。だから、それを利用する術を身につけなさい」

「それが、“教え”ですか?」

「いや、これは単なるお節介だよ。“教え”はここからだ」


ジルトは構えた。


殺されることはなさそうで良かった。だが、正直言って、目の前の人物に恐怖を抱き始めていた。


ーーファニタ、ハルバ、早く助けてくれ……。


そんな情けないことまで考える始末である。


いくら公爵と敵対するスピレードに取り入ろうと思っても、自分が飲み込まれたんじゃ、全く意味がないのだ。


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