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だらだら不本意運命奇譚  作者: 縞々タオル
一人遊びのお姫様
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公爵の必殺技

適当な鼻唄を歌いながら、手を動かす。


画布に赤を塗り重ねる。主題は炎ではない。筆は淀みなく進む。


静謐な時間が流れていた。完成した絵を見て、彼は満足げに微笑んだ。






夕闇に包まれつつある王城にて。ぱちん、とガウナは指を鳴らした。

途端、足元に現れる魔法陣。これは、ヘルマンを殺した時の魔法陣である。通称(本人しか使っていないが)“魔女の生贄”。


それを半眼で見るペルセ。


「……何、やってんの?」

「練習」

「一発芸すんの?」

「必殺技をするんだよ」


何言ってんだこいつ、という目を躱して、ガウナは魔法陣の端から端を指差した。


「この範囲に入ってきた人間は死ぬんだけど、あまりにも狭いんだよね」


あと、僕が移動できないというデメリットがある。

そんなことを淡々と語るガウナ。


「だから、確実性はあるけど、実用性には乏しい」

「超近接用というわけだ」

「そう。だから、改良してる」


ガウナはペルセを手招きした。


「いやお前、その説明した後に人呼ぶ?」

「人じゃなくて神だろ? それに、これは見掛け倒しだから大丈夫」

「見掛け倒し? はーん、なるほど」


どうやら心を読んだらしい。ペルセはひょこひょこと来て、魔法陣の中に足を踏み入れた。


「そういうことか」


異常なし。これは人であれば魔力を完全に吸い取って殺す魔法陣だから、神であれば微々たる魔力を吸い取るんだろう。が、その素振りもない。


「良かった」

「(ちょうどいい実験台がいて)じゃないんだよ。神を未完成魔術の実験台にするな」


などと言ってくるペルセを無視して、ガウナは最終調整をする。


ーーでも、これってかなり卑怯だよなあ。


なぜか、灰色の髪の少年が蔑んだ目で見てくるのがありありと浮かんだ。


ガウナは軽く頭を振った。席に戻り、空白になった内務大臣の穴埋め候補を書類で見る。見事に、スピレード側ばかりだ。それはそうだ、四年前に生き残ったのは、トウェル王に反感を持っていた人々なのだから。



 



スピレードは、ジルトの頼みに困惑していた。ように見えた。


「君のような子が、人を殺したいと思うのかい」

「そうです。俺は、アウグスト公爵を」


ジルトはそこで言葉を切った。ウェイトレスがパフェを持って来たからだ。


今度は、左隣の少女はジルトを見た。ジルトが頷くと、少女はパフェを食べ出す。ジルトもスプーンを手に取った。


「クリームが溶けないうちに食べようか」


そのやりとりを、やはり温かく見守っていたスピレードがそう言った。




パフェの中ほどまで食べて、スピレードは紅茶を飲んで息を吐く。


「先ほどの君の頼みだが、それは断らせてもらうよ」

「どうしてですか?」

「君は殺しには向いていないからだ」


その言葉は、ジルトのとある記憶を刺激した。『君は誰も殺せない。僕と正反対なんだ』。不快な記憶だ。


「気を悪くしないでくれ。褒めてるんだよ」


宥めるような言い方で、スピレードはジルトと、左隣の少女を見た。


「かつて、私には頼れる生徒が二人いた。君は、そのうちの一人にそっくりだ」

「生徒、ですか?」

「そう。“孤児院”の子達は、皆私の可愛い生徒だ。でも、私の後継者はあの二人だけだよ。ミュール君とミラ君。ミラ君の方は、残念ながら亡くなってしまったがね」


二人とも、ジルトが知っている名前だった。“孤児院”。おそらく、彼が院長だと言った所以はそこにあるのだろう。


「君は、どちらかというとミラ君に似ているよ。その子が懐くわけだ」


ジルトは左隣を見た。少女がじっ、とジルトを見ていた。


「君は、ガウナ君を殺したいんだろう?」

「はい」

「それなら、私と利害が一致するわけだ。アントニー君の生死以外ではね」


ジルトはコーヒーを飲んだ。苦い。

どんなにゴマを擦っても、ジルトとスピレードにはその差がある。


「けれど、その差異ごと、私は君に興味があるんだよ。なにより、君は人を“殺させる”のに向いている」


二口目はましだった。そんな褒め方をされるとは思っていなかった。


「だからどうだろうジルト君、ガウナ君を殺す人材を、作ってみないかい?」






慌てふためくハルバを見て、ファニタは「本当にアイツの言った通りだわ」と笑ってしまいそうになった。


女子寮に突撃してきたハルバは、その入り口で目をぐるぐるさせながら、あーでもないこーでもないとファニタに要旨のわからないことを言った。いや、要旨はわかるか。要はジルトのことである。


「俺はマルクス財務大臣のバカ息子が死んでもどうでも良かったんだよ、でも説得には成功した。終わったと思ってたんだ。それなのに、アイツ、今何してると思う? 凶悪殺人犯と一緒にお茶してるんだぜ?」


動揺のあまり、本心まで言っている。なるほど、これもその通り。


「なあ、アドレナさん。今すぐアイツを止めないと、アイツ、死んじまうよ。助けないと」

「ねえ、ハルバ」


だから、ファニタは微笑んでハルバに伝えた。灰色の髪の少年が、スピレードと会う前に残していった言葉を。


「ジルトから伝言。『これに懲りたら、自分を責めるのはやめろよバカ』だって」

「うっ……」

「『あと、実は死にたくないから助けてほしい』って」

「アホかアイツは!!」


ハルバは叫んで、黒瞳を光らせた。


「……まだ生きてる。大丈夫だ」


自分に言い聞かせるようにして、息を吐く。


「それじゃ、俺は何をすればいい?」

「片っ端から予知をしていって。それで、作戦を練るから。アイツを助けるのが一番だけど」


ファニタは悪戯っぽくウインク。


「ついでに、アントニーさんも助けるわ」

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