推理
マジックは、解けかかっている。
王都を立て直した出自の不明な公爵が、平和な世の中にあって、疑われはじめたように。
かつてセレス姫に喩えられたリルウは、その容姿から、同じ物語の中でも魔女だと密かに囁かれ始めている。
「誘導している、ね」
公爵は、その容姿に似合う、薄ら寒くなるような笑みで、ジルトを見つめた。
「あれは、民衆が噂していたものに便乗したに過ぎない。深い意味はないよ」
「いえ、貴方は誘導をしたんです。なぜなら、四年前に民衆が想起した物語は、アルバート王のものだけではなかったからです。
それこそ、英雄アルバートと違い、王家の家系図に確かに名を残した王の時代にも、限りなく事実に近い伝説があるんです。火に包まれた王都を救った英雄の物語が」
アルバートの物語は、王都で暇潰しに読まれていた英雄譚集成の中で、目立つでもない存在だった。『火から国を救った物語』……その項目に、彼の話は収められていた。
「ですが、民衆が選んだのはどこの馬の骨ともわからないアルバート。まるで公爵みたいですね」
ジルトが皮肉げに笑う。
「箔をつけるなら、あやふやなアルバートよりも、実在した王の伝説を選ぶべきだった。貴方は民衆に便乗したように見せかけて、焼け落ちた王都を救うのは、アルバートの物語でしかないと決定づけたんだーー薔薇の魔女のために」
草色の瞳に仄暗い光を宿らせ、ジルトは続ける。
「そう、戴冠式は、貴方が愛する薔薇の魔女のお披露目にしかすぎなかった。まったく、反吐が出ますね」
吐き捨てた言葉は、公爵にどう響いたのか。
やがて、公爵は肩を震わせ始めた……。
公爵戦次回で終わりです。わりと長かった




