表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
だらだら不本意運命奇譚  作者: 縞々タオル
一人遊びのお姫様
109/446

接触

どうでもいい話ですが、四股にするとしこになるのでやめました。

意外に早かったな、とジルトは思った。


セント・アルバート学園、応接室。居心地悪そうに座る赤茶けた髪の青年に、ジルトは笑いかけた。


「待ってましたよ、アントニーさん」

「ふん、手間かけさせやがって。だが、この俺の能力をもってすれば……」


以下自慢話。ジルトはそれを苦笑いで聞いていた。要はマルクス家がすごかっただけである。


「……と、いうことで、俺はお前にたどり着いたというわけだ」

「すごいなー」

「なんだその舐め腐った褒め方は。もっと誠意を込めて褒めろ」

「……」

「無言になるな!」 


大臣の息子は意外とノリが良いらしい。それはともかくとして、ジルトは早速本題を切り出した。


「俺が貴方に言いたいのはただ一つ。公爵を煽るのをやめてください」

「公爵? ああ、あの宰相のことか」


ややこしいな、とアントニーは言った。たしかに、今までジルトにとっては公爵だったが、アントニーにとっては宰相の方がイメージが湧くらしい。


「そう、アウグスト宰相です。貴方が新聞社に、現政権の悪い噂をタレ込みまくってることはわかってるんです」

「悪い噂というか、真実だよ。父様は隠していたが、当時ルクレールに弱みを握られてたことは明白だ。これは次にタレ込もうと思ってるが、前に燃えた施療院なんかもおんなじ理由で建てられたもんだ」

「……ずいぶん、喋ってくれるんですね」


ジルトがアントニーの立場だったら、警戒心剥き出しになるのだが。

アントニーは、猫っ毛をかき混ぜた。


「隠しても無駄かと思ってな。それに、あの喫茶店で、ご丁寧にお前は自分の立場を明確にしてくれた。わざわざ放火犯に“さん”なんてつけて。火事で追いやられた宰相側ではしない言動だろ。だから喋ってる」


意外と冷静なアントニーに、ジルトはいけるかもしれない、と思い始めた。


「そうなんです。俺が言いたいのはーー」

「だけど、俺は手を引くことはしないからな」


そんなジルトの希望を、アントニーがバッサリと斬る。


「俺から女を奪ったあの下賤な宰相を引き摺り下ろすまでは」 


一転。アントニーの水色の瞳は冷静さを失っていた。


「お、女?」

「そう。先日行われた舞踏会のことだ。その女に俺たちが親切にしてやろうとしていた矢先、掻っ攫っていきやがった」 


そんなことが。ジルトは目を丸くした。


ーー俺は途中から来たからわからないけど。


なんだか浅そうな因縁だな。


「その舐め腐った目をやめろ腹立つ」

「すみません」


そんなことを言われても……と思いつつ、ジルトは懸命に興味があるフリをした。


「で? 宰相が掻っ攫っていったのはどんな女の子だったんですか? やっぱり十歳以下の子ですか?」

「お前は俺を宰相と同じ性癖を持つ者として見てるのか? 普通の少女だったよ。金髪に、お前と同じ目の色の、そういえば、歳もお前と同じくらいか」



……ん?



途端、ジルトは目の前の青年に妙な既視感を覚えた。そういえば、この自信満々な声、軽薄そうな容姿、どこかで……。


「その子に気付いたのは俺が最初だった。俺は親切心を発揮して、その子に言ったわけだ。『ねえお嬢さん、こんなところにいたらーー」

「『こんなところにいたら狼に食べられちゃうよ。僕が安全なところまで連れていってあげるよ』」

「そうそう、それ……は?」


目の前で間抜け面をするアントニーに、ジルトは最低最悪な気分になっていた。

ジト目でアントニーを見た後に、せめてにっこり笑ってやる。 


「お久しぶりですね、あの時のお兄さん?」






応接室は、気まずい空気で満ちていた。


「……お前、なんで女装なんてしてんだよ」

「諸事情です。なんで騙されるんですか」

「諸事情だよ」


どんな諸事情だ、と突っ込みたかったが、それを突っ込むと自分の方も言わなければならなくなるので、ジルトは口を噤んだ。


「道理でドン引きしてたわけだ……中身が男だったわけだから」

「いや、それもそうだけど、アントニーさんの口説き文句に鳥肌が立ってたっていうか……」


改めて腕をさするジルトに、アントニーは微妙に傷ついた顔をしていた。その様子を見て、ジルトはアントニーを宥めにかかる。


「これでわかったと思うけど、貴方と宰相の因縁、本当に意味ないですから……今のうちに手を引けば、特定されずに済みますよ?」

「そうだな……と、言うと思ったか?」


まだ諦めないのか、とげんなりするジルトに、アントニーは人差し指を突きつける。


「これはつまり、宰相が間抜けだと世間に知らしめるチャンスだと俺は思う!」

「漏れなくあんたの間抜けさも世間に知らしめられますよ」


テンション低く突っ込むジルトだが、アントニーは丸無視。わきわきと手を動かす。 


「ぐへへ、お前を売れば、俺は宰相に勝てる……」 


完全にゲスな顔になっている。やはり、新聞の三面記事に載る人物は伊達ではない。


「俺を売ることはおすすめしませんよ。ていうか、売ったら売り返します。あんたが実は二股じゃなくて、三股かけてることを新聞社に吹き込もうかな」

「な、なぜそれを……!?」


ハルバが教えてくれたからである。

それは言わずに、ジルトは悪どい笑みを浮かべて言う。


「両令嬢からは訴えられそうになってるんでしょ? これにウィリア子爵令嬢が加わったらどうなるのかなー」

「俺を脅そうってのか」

「そうなりますね」


さて、どう出るか。ジルトは草色の瞳を眇めた。


アントニーは、下を向いてしばらく黙っていた。これで激昂しないあたり、やはり冷静な面を持っている。


「……わかった」 


やがて、静かな声でそう言った。


ジルトは胸を撫で下ろした。のも束の間。アントニーはジルトのことを見据えて言う。


「ただし、お前が俺のスキャンダルを鎮火しろ。それが条件だ」

「……は?」 


意味不明な要求に、思わず間抜けな声を出したジルトに、アントニーはにやりと笑った。


「メリーもエルシーもナタリアも、ミーシャもキャロルもノエラも、精算するいい機会だからな。お前が女装して俺の彼女として振る舞って、奴らに引導を渡せ」

「いや」


ジルトは指折り数えて、一言。


「六股してんじゃねーよ!!」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ