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だらだら不本意運命奇譚  作者: 縞々タオル
一人遊びのお姫様
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どうでもいい命

すごいゲス

久しぶりに学園に帰ってきた親友に、ジルトはこれまでのことを話した。


孤児院が燃えたこと、公爵が探している人物の正体、そして、魔術と魔法の話。


孤児院が燃えたことは、ハルバも知っていた。それもそうか、アレは今もなお、新聞で大々的に取り上げられているのだから。


「なあハルバ、本当に、ルクレールさんが燃やしたと思うか?」


ジルトは、正直言って自信がなくなっていた。

なぜなら、孤児院放火事件における新聞記事は、予想外の方向に転がっていったからだ。


ミラ・ウィトメールが経営していた孤児院は、リルウが言っていたとおり、この国の福祉政策のモデルとなる場所だった。

今回の放火事件の犯人と目されるルクレール・ヘッジが、現財務大臣カイリ・マルクスをたらし込んで自ら建設に携わった孤児院であると、各紙は報道している。


おかげで、アウグスト公爵の傀儡政権は大打撃を被り、四年前の大火のどさくさで進められた福祉政策は馬脚を表してしまった、とも。


それが鎮火されないで、何日も報道されている。これまでの公爵側の出方からすれば、不自然なほどに。


『いつもの公爵の出方じゃない。いつもなら、別の話へのすり替えが起こっているはず』


それなのに、話の主題が孤児院が燃やされたことから外れない。不当な裁判、狂言殺人、そして施療院。これらは裏を返せば、予定通りのことだったとファニタは言う。予定通りだったからこそ、予知による迅速な行動ができた、とも。


彼女は沈んだ表情で、こうも言っていた。


『この孤児院放火事件は、彼らにとって予定通りじゃなかった、ということになるわ』


それは、つまり。


「……俺が言ったこと、覚えてるか?」


ファニタの言葉を思い出していたジルトは、ハルバの言葉で我に帰った。


「死なせたと殺した。その違いだよな」


それは、彼が実家に帰る前に投げかけていった言葉である。ジルトが言うと、ハルバは頷いた。


「そ。俺が言いたかったことは、あんまり背負うなってことだよ。今回のことは、お前が殺したんじゃないだろ? それに」


何かを言おうとして、ハルバはやめたように見えた。ジルトの肩をぽんと叩く。


「悪いのはあの公爵なんだからさ」






まずったなー、とハルバは、久しぶりに帰ってきた寮の自室で、頭を抱えていた。


今まで劣等感とクズさで生きてきて、自分で精一杯だった。人を励ます術なんて身につけてないので、いざという時どう言えばいいのかわからない。ジルトに復讐を吐かせたのだって、ファニタがいたからできたことであり。


ーーなんで帰ってきたんだろ、俺。


そんな考えも浮かんでくる。


「誤魔化せたよなぁ。誤魔化せたんだよな、俺」


心の中で、くすんだ金髪の子爵を恨んだ。舞踏会の夜、視ようとしても視えなかった彼は、ハルバの中で限りなく黒だ。


だがそれはジルトには言えない。公爵関連での殺した死なせたならともかく、余計なものを背負わせたくない。


「だから俺が、利用されるんだ……か」


子爵がジルトに言ったという言葉を口に出す。ジルトは舞踏会での乱入を指すと思っているようだが、実際は孤児院のことまでも含めてだろう。


それに、利用されるという言葉。子爵を視た時に、ハルバは暗闇を見た。そして、壊れない壁を壊そうとする感覚も。それは、ジルトを施療院へと導いた日に感じたのと、逆の感覚だ。


よって、ハルバは結論づけた。子爵の背後には、自分の同類がいる、と。


操られていることを自覚しながらも、子爵は孤児院を燃やした。せっかく飛び込んできた公爵への復讐の機会を捨ててまで。


ここにきて、親友の理想の復讐は、暗雲が立ち込めつつある。

公爵とジルトの一対一だったらよかった。だが、子爵の背後にいる誰かが割って入ってきた。


その誰かに、ハルバは怒りを感じていた。


ジルトの復讐心を知りながら、それを邪魔し、あまつさえ、子爵に殺させる手段をとらせる最低最悪な人物。


「いいさ、それなら……」


低い声で呟き、ハルバはそれを視る。


『アッカディヤの魔術儀式』を阻止した時に、ハルバに宿った予知能力は、とても弱いものだった。誰がどこにいるという程度しかわからない弱いもの。会話でも聞こえれば万々歳だが、あいにくそれは聞こえない。


ジルトが話してくれた、公爵側の奴には到底敵わないだろう。


だが。


とある男を視て、ハルバはにんまりと笑った。


実際に目にしなくてもいい、姿さえわかっていればいいのだ。それに気づいたのは、新聞を読んでからだった。


「これで、気が楽になってくれたらいいんだ」


今度こそ、公爵とジルトの一騎打ち。今度こそ、“死なせた”と“殺した”の違いをジルトにわかってもらうのだ。


ダグラスの末裔は笑った。すべて拾えるとは思っていない。それならせめて、選別を。


自分みたいに、どうでもいい命もあるのだと。ジルトにそれを、理解させてやればいい。








赤茶けた髪の青年は、新聞を読んで、一言。


「ざまあみろ、下賤が」


新聞は、傀儡政権下における急拵えの福祉政策についての批判、そして、財務大臣への批判が書き立てられていた。


今までリルウ政権に不備がなかったわけではない。ましてや馬の骨公爵とこき下ろされる彼は、その有能さで隠しているが、不備の塊であることを、()()()()()である青年は知っている。


そう、アウグスト宰相は思いもしないだろう。孤児院放火事件の話題を延焼させているのが、この青年、現財務大臣の一人息子、アントニー・マルクスだということを。


アントニーは、肩を震わせた。


ーーそれにしても、孤児院が焼けたのはラッキーだったなあ。


おかげで、あのスカした宰相の面を歪めることができそうだ。俺から女を奪ったあの男の!


そう。あの舞踏会での一幕。突然現れた可愛らしい少女を、アントニー達が()()()から踊りに誘おうとしていた時だ。


あの男は、何を勘違いしたかわからないが、まるで暴漢から少女を助けるように、颯爽と現れて、少女を連れ去った。アントニー達に冷たい目を向けて。冷たい目を向けられてたのはお前だってのに。


ふざけるな。成り上がりの宰相が。


プライドを傷つけられたアントニーは、宰相を蹴落とすことに決めた。


「さてさて、次は君だよ子猫ちゃん」


まさに猫撫で声で、アントニーは下卑た笑みを浮かべる。


金色の髪に緑っぽい瞳。おろおろしながらも、「何言ってんだこの人たち」とドン引きした様子の彼女を思い浮かべて、アントニーはぶるりと身を震わせた。


「待っててね、必ず捕まえてみせるからねぇ」

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