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だらだら不本意運命奇譚  作者: 縞々タオル
一人遊びのお姫様
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魔法使いの一族

「結局悪いのは人間かもしれない」の代表格を前にして、ペルセは思いっきり嫌な顔をしていた。


なにせ、こいつの一族は極悪人ばかり輩出している。例に倣ってこいつもそう。当代の英雄君を見出して、食い物にしてやろうと黒瞳を光らせている野心家だと一目でわかった。


「たまには自分で天下を取ってみたら? お人形さん遊びはつまらないだろ?」

「いいえ」


三文字。どうせ心が読めるんだから無駄なことは喋らないという物臭さ。そういえば、自分のとこに死刑宣告に来た奴もこんな感じだったとペルセは思う。


ダグラスはこれだから嫌いだ。ペルセは赤い瞳を半眼にした。


人から予知能力を奪っといて、やることが人間同士の泥沼を生み出すことだ。ちゃちい、ちゃちすぎる。能力返せ。


「まー縛りプレイも面白いけどさー、やっぱり能力返せ」 


だめです。


とうとう発音しなくなった。どんだけ労力使いたくないんだこいつは。


「先祖の妄執に取り憑かれて悲しくないのかお前たちは?」 

「悲しくなんてありませんよ。劣等の者たちにとっては、それしかないのですから」 


黒瞳を煌めかせ、英雄信者の最たる者は、浮ついたような口調で言う。というか、急に饒舌になった。これも、ペルセには理解できかねること。


「あの方は、英雄は、そんな私たちの劣等感すら理解して、背負ってくださるんです」


英雄を操り人形にしておきながら、魔法使い(ダグラス)は、英雄が死んだ時に嘆いて、嘆いて、嘆いた。さんざん使い古してさあ次という冷酷さを見せずに、焼死体を前に、涙さえ流してみせたのである。

そうして、その焼死体を薔薇の魔女の死体から引き剥がし、


「『アッカディヤの魔術儀式』で、英雄の生まれ変わりを転生させたらいいじゃないか。そうすれば近道なんじゃないの?」


今度は、たぶらかしてあったお姫様を使って、あの儀式を敢行したのである。


そう、あの儀式は、どこをどう間違ったかわからないが、薔薇の魔女を蘇らせるための儀式だと伝えられている。しかし、本当はその逆。英雄を蘇らせるための儀式だ。


それが現代に至るまで、魔女信者によって、魔女を蘇らせるために使われている。

クライスに聞いた話だと、ガウナもそのやり方を知っていたらしい。ガウナが知っていたのは、別の理由があるとして、事実の歪曲が行われたのは、やはり……。


「アレは失敗作です。ですから、魔女信者にくれてやりました」


しれっと敵側に「死者を蘇らせようとする愚行をしたこと」を擦りつけている。魔法使いの一族は流石に汚い。


「生きている英雄が重要なのです。今度は死なせない。魔女を討っても、我々の“理解者”として君臨していただきます」


骨の髄までなんとやらである。ペルセは、ぶるりと震えた。神様を震えさせることができるのは、ダグラス以外にいないだろう。


「でも、そんだけ殺意ましましでいたら公爵に殺されるだろ、たぶんそうだよ、うん」


というか殺してくれ。コイツはうんと苦しい死に方をしないとダメだ。できれば踏み躙ってきた人間によって死んでほしい。


「ああ、あの方なら大丈夫ですよ」


そこで、喋るのが面倒くさくなったのか、口を閉じる。英雄の話の時だけ声に出す律儀さ、見習いたくない。


読心によると、予知能力による世論操作の有用性と、何より本人の魔女っぽくない気質が作用して殺されないということだった。


「ギリギリまで生かしてもらえると思いますよ。あの方は、魔女と違って聡いのでね」


なんで、いちいちディスるんだろうな、英雄信者ってやつは。


まったく、トアヒみたいなやつが珍しいんだと、ペルセは思った。アイツも英雄信者だが、コイツよりよっぽどいい。というか、アイツが真実を知ったなら、英雄信者の敵が英雄信者ってことになるな。笑える。


そんなことを思っていたら、ジト目を向けられた。


「そろそろ良いですか? ジルト様に、監視が烏に変わることを報告しに行かないと」

「それ報告する必要ある?」


その英雄好き好きオーラを直さないと、英雄にする前にジルト様とやらが公爵に殺されちゃうぞ、とペルセは思ったが、それはないか、と思い直す。

なにせ、公爵の思い人である少女もまた、その少年なのだから。

ま、気づいたらの話だけれど。











弟は変わったな、とレオンは思う。 


四年前の大火。祖父と共に燃える王都を見てから、弟の表情には影が差すようになっていた。本人は気付いてなかったろうが、自虐的な言動が増えた。


それが、学園に入学してから、少しだけ上向いたように思える。なんでも、同類を見つけたらしかった。“やる気なし同盟”という名称は正直どうかと思ったが、弟が明るくなったのなら、その同類の少年に感謝しなければ。


最近では、積極的にここに帰ってきて、領地経営の勉強に取り組んでいる。「できることをしようと思って」とはにかみながら言った弟に、胸が熱くなったのを覚えている。  


レオンは、弟が背負っているものを知らない。あの日、燃える王都を見ながら、祖父と何を話していたのかも。

若い貴族が出席する式典をことごとく避けていた理由は思いつく。弟は優しいからだ。


『ジルトって言うんだ。そいつとなら、克服できる気がする』


だから、植樹祭に出席したいと言った時には驚いた。“やる気なし同盟”の少年の名前を出した時はもっと驚いたし、嬉しかった。レオン達に、友達のことを教えてくれた、心を開いてくれた。




新聞を読んで難しい顔をしている弟は、きっとジルト君のことを考えていたんだろう。


レオンと父は相談して、弟に一度学園に帰るように言ってみた。弟は少し迷っていたが、帰ることを決めたようだ。






弟の乗った馬車を見送りながら、レオンは穏やかに笑って、隣に立つ父に言う。


「もう、心配ありませんね」

「ああ、そうだな」


父の瞳は潤んでいた。この人は、態度にこそ出さないが親バカであることはわかっている。


「死にたがりはいなくなったか。代わりに信者が誕生しないと良いんだがな」

「大丈夫ですよ、ハルバなら。いいえ、ハルバとジルト君なら」

「……ジルト君、か」


そういえば、父はその名前を聞いた時、とても傷ついたような顔をしていた。


「レオン」

「はい」

「王都が燃えなかったとしても……」


その先は、口に出されなかったけれど、レオンにはわかっていた。


「大丈夫ですよ、今度はハルバが支えるから」


弟は、英雄信者のように、英雄を食い潰したりしないのだから。


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