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だらだら不本意運命奇譚  作者: 縞々タオル
斯くして、人はどうしたか
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斯くして、人はどうしたか

絶世の美姫。地上に舞い降りた天使。少女にして聖女。


彼女を評する言葉はいくらでもあるが、実際のところはただの戦闘狂である。


齢十七にして一騎当千の力を待ち、現在表向き停戦中の王国以外との戦では、連戦連勝。ついでに婚約者が数十人いるが、その面においても連戦戦勝。名家の子息は次々土にお還りになられ、彼女の思惑通り、「結婚」を口にする貴族はもはやいない。


「ヒルレアンを陥して参りました。ヒルレアンは良いですな。上質な絹の産地ですから、我が帝国の服飾文化も向上することでしょう」


嬉しそうに言うラミュエルはセブンスの足元に跪き、そっと包み紙を差し出した。


「うん、ごくろーさん」


セブンスはそれを受け取り、ラミュエルの頭を撫でる。ラミュエルは翡翠の瞳を細め、蕩けそうな表情になる。


「ふああああ……これぞ至福のひととき……セブンス様のご褒美、えへ、うへへへへ」

「よし、これでジルトに良い服を作って送ってやろ。ついでにドレスも、きっと喜ぶぞぉ」


両者とも、満足してるようだしいいか。たぶん送り返されるドレス(送り返せないが)に心の中で合掌しつつ、ソフィアが生温かい目で見守っていれば、ラミュエルが突然きりっとした顔でソフィアを見た。こうすると格好いいから、美女は得である。


「それで、ソフィア殿! 今日は貴殿にお願いがあり、参上致しました!」

「その前にその姿勢をやめてください! 私はただの市民なので、セブンス様みたいに肝が据わってないので」

「おい、どういう意味だ」

「む、それなら」


ラミュエルがすくっと立ち上がり、ソフィアの手をとる。あまりにも自然な動作に、ソフィアは一瞬固まった。


「貴殿の予知を以って、この帝国に巣食う悪人どもを、懲らしめて欲しいのです」


翡翠の瞳は深い色をしていた。


「て、ことだ」


セブンスが愛おしそうに紙袋を抱えながら言う。


「予知の特訓その二、始めるぞ」






相も変わらず、トアヒはクライスを連れて、ペルセを煽りに来た。 


「ごめんペルセ、こいつ、俺たちの秘密知っちゃったみたい」


てへっ、と舌を出すトアヒに、ペルセは殺意を覚えた。 


「お前、神との契約は誰にも言ってはならんと言ったよな?」

「俺だって約束破ってないしー。言ったのは村の婆さんですしー」


反省という文字がない。きっかけは婆さんでも、喋ったのはコイツだ。コイツは、王都から来た青年を巻き込んでもいいと判断したのだ。


「マイペースな青年、おヌシはそれで良いのか?」

「私は魔法を打倒できればなんでも。いえ、魔術も打倒したいですね」


ダメだ。そういえばこいつ、バカだった。ペルセは己の将来を悲観してしまう。


「と、いうか、一作家に神を倒せるわけないじゃろがい! 条件緩めろ」

「あはは、今更気づいたのかー? 大丈夫だって、俺はお前の著作を読んでるからさー」


著作。そういえば、この山に来た時真っ先に見せに行ったっけな。 

 

ーーワシのバカ! どーしてそんなことしちゃったんじゃ!


思い返せば、アルバートの悲恋を知ってしまったのが運の尽き。ゴリゴリのアルバート信者の家系に生まれてしまったペルセは、アルバートの仇を取ろうと、ラーナ・ナーヤでトアヒを煽った。


その時に読ませたのが、自身の著作『山女の契約』。実は主人公の山女はローズをモデルにしており、その相手役はもちろんアルバートをモデルにしているが、結末はハッピーエンド(の予定)。ライバルで出てくるお姫様はセレス姫。物分かりがよく、当然彼女もハッピーエンドを迎える(予定)。


今や王都の人々は自身の著作に夢中。そんな状況に満足し、あとは伏線回収をして大団円というところで、ペルセはとち狂ったのである。


ーーそうだ、山に行こう。


ちょうど、妻ネーベラを亡くして悲嘆に暮れていたところだった。シューエルも司書として働きはじめたし、話のネタにもなるかもしれないから、取材と煽りに行こう。大丈夫、神の居場所は()()()()に書いてある。


なんてことを考えたのが二十年前。結局著作は完結させられないし、自分の名前を失うしで散々である。


「いやちげーよ、お前の人生じゃなくて、俺に言ったことを思い出せって言ってんの」


赤い瞳が呆れていた。


「勝手に心を読むんじゃない、えーと、お前の名前が消えるってことと、あと……魔術のこと?」

「そう! それだよ!!」


上機嫌になるトアヒ。そういえば、そんなこと言ったな、と思う。


「“魔法、強いて言えば魔術”! その言葉に感動したから、お前と賭けをしたんだ! あとは、わかるな?」


いやわからん、と言おうとして、わかった。目の前の少年が、自分にさせようとしていることに。


「ケィル・モアハ不要論……」

「そう、そういうこと。そのために、王都から派遣された気に入らない軍人殺して、ここをとっておいたんだ。な? ペルセ。そろそろ、お前の物語を終わりにしようぜ?」


心底嬉しそうに言うトアヒは、たぶん、狂っている。






金髪の少女が言った言葉に、ミィリエの心は少し暖かくなっていた。


一人になった第三書庫。ミィリエは、『魔法魔術古語辞典』を捲り、魔術の項を見つけ出した。


魔法が神と契約し、人の望みを叶える手段ならば。

魔術はきっと、素晴らしいものに違いないのに、どうしてこの辞典は、ミィリエの思う通りのことを教えてくれないんだろう。


『魔法魔術古語辞典』“魔術”の項。


“斯くして人は、どうしたか。人は、魔術を作ったのである。そうして人は、不幸になった。人は、同族を殺し始めたのだ”


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