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だらだら不本意運命奇譚  作者: 縞々タオル
斯くして、人はどうしたか
100/446

そして人は、不幸になった

100話ですいえーい

セブンス・レイクの人生は、驕りに満ちていた。


魔法という異端の力を使役しながらも、王家に召し抱えられられるレイク家に生まれた彼は、自分の才能を認識していた。彼は最初から、頭脳でも、身体能力においても、ついでに容姿においても祝福されていた。

唯一祝福されないのは人間関係であったが、少数の忍耐強い友人に皮肉を言いながらも、彼はなかなかに楽しい時を過ごしていた。


そう、あの時までは。


「なるほど〜、人にしてはなかなかやるな、お前」


けらけらと笑う少年を、セブンスは地面に這いつくばりながら睨んだ。


「これは、俺の脅威になっちゃうかもな〜、いやあ困ったなあ〜」


口ではそう言いながらも、余裕ぶった態度の少年に、セブンスは人生で初めて怒りを覚えた。そして、多少の悔しさも。


「人ってのは、借り物の力でイキっちゃう残念な生物なんだよな。うん、わかってた。だから好きなんだけどさ〜」


間延びした言い方も実にムカつくが、セブンスはとうに認めていた。コイツには勝てない。


「お前は正真正銘の雑魚で、ほっといてもいいんだけど、俺の遊戯を台無しにしそうなんだよな〜。ほんっと、聖人ならともかく、中途半端な善人はダメだわ。だから」


赤い目を三日月の形に歪ませて、少年は言った。


「お前は、退場!」


ぱちん、と指が鳴らされた。






今まで自分がしてきた遊戯の、最高傑作はなにかと聞かれれば、迷わずあの男女のことを答えるだろう。

あれはとても綺麗な帰結だった。人の愚かさがふんだんに散りばめられた、とっても綺麗な物語。

だけど、くだらない伝説で真実は闇の中。まあ、それもいいか。


彼が再び現れてくれるのならば。











炎が揺らめいていた。


蜂蜜のような金色の髪に、紅い林檎のような瞳の彼女は、驚愕の表情で目の前の彼を見た。


「なんで、魔法は解いたはず……」


震える肩ごと、彼は彼女を抱きしめる。


「馬鹿だな、ローズは」


泣きそうな顔をして、彼は笑った。草色の瞳の彼は、宥めるように、優しく彼女の背中をさする。


「そうして、俺も馬鹿だ。こんなことなら、早く告白してりゃよかった。もっと自惚れてよかったんだな、俺は」


彼の言葉に、彼女は涙を流した。その涙にはきっと、二つの意味がこめられていた。


「でも、最後の最後はお前についててやれる。今まで一人にしてごめんな。愛してる」


彼の声は震えていた。彼女もまた、震える声で返事をした。


「ありがとう、とっても嬉しい。私も、私も……っ」


嗚咽の方が先に出てくる。それでも彼女は、満面の笑みで言えた。


「貴方を愛してる」











二番目に上手くできた遊戯は、最近のことである。

自分にたどり着いた瑠璃色の目の男は、その著作を突きつけてきた。


「どーだ? これこそが、人間様ができる復讐よ。これからラーナ・ペルセは違う名前の山になる。お前のたどった道と同じように、名前を忘れられるんだ」


久しく忘れていた怒りの感情を思い出しかけてしまったので、とりあえず彼に賭けを持ちかけた。


そんなちっぽけな復讐より、俺の存在そのものを消せば、英雄の「ほんとう」を取り戻せるかもよ? と。


彼はそれに乗ってきたので、担保として名前をもらった。名無しになった彼には、意味のない俺の名前を押し付けてやった。






それから一年ぐらい経った時、あのかわいそうな女の子がやってきた。


かわいそうな女の子は、その成長を犠牲にして、彼の名前を覚えていることを望んだ。


俺はそれを了承した。彼は……ペルセは反対していたけれど、それで発破をかけられたようだ。これはなかなかいい出来事だった。


本気で殺そうとしてくるペルセは、退屈しのぎになった。


それで退屈を紛らわせて、九年くらい経った頃。ペルセがそろそろ諦めたような目をして俺のもとに来なくなった頃、俺ことトアヒェル(この頃には長くてトアヒと名乗り始めた。他人の名前を変えるなとペルセは怒っていてとても面白かった)はたいへん面白いものを見つけてしまった。


ーー英雄と魔女とお姫様!


この三人が、同じ時代に存在することになったのである。とりあえず、俺はこの三人を会わせることに決めた。面倒くさそうな才能に驕ってるどっかの男を排除して。そうしたら六年後、おかしなことになった。


片方は血塗れだし、片方は女装している。まったくわけがわからないが、俺好みのシチュエーションである。


ふんふん、これは神として導きがいがありますなあ。俺は、操ったら面白そうな奴を探してみた。


これはぜひバッドエンドにしなければ。


とりあえず、あの銀髪の方は不幸数値をぶっちぎっているから、勝手に不幸になるだろうし、きっと面白くない。


とすると、金髪の子は? ああ、あの子は誰にも愛されてない子だ。実の親にも愛されてない可哀想な子。これもパス。自責の念に駆られて自殺でもしそうな弱い駒だ。


じゃ、消去法で英雄の生まれ変わりか。正直言ってあの英雄はよくわからない。

英雄になったのもグダッグダな経緯だし、変な信者ついてるしで、何がゴールかわからないが、ま、これに片がついたら会ってみるのもいいかもな。


そんなことを木の上で考えていたら、顔面に不意打ちを食らってとても面白かった。この男が死ぬまで相手をしよう。そう思った。











燃え盛る王城は、いよいよ終わりを告げていた。


アルバートは、事切れたローズを抱きしめ、草色の瞳を濁らせた。


神はこの世にいる。とびっきり性格の悪い奴が。俺が今まで知ろうとしなかった奴が。


「アル様……」


ふらふらと近づいてくる青色の髪の女は、憔悴しきった様子だった。アルバートはそれに心を痛めた。


「終わらせよう、セレス」

「ええ、そうですね」


セレスが指を鳴らす。炎が勢いを増して、アルバートとローズを包み、優しく焼き殺していく。


「さようなら、私の好きな人……さようなら」

「ああ、さようならセレス」


アルバートはできるだけ優しく呟いた。セレスは悪くない。悪いのは、俺と、そして神なのだ。


ーーもし、生まれ変われたのなら。


草色の瞳に炎を映す。


濁りと炎を宿らせた瞳で、アルバートは最期まで空を見上げていた。


どこかで見ている誰かに、次はないぞと微笑みながら。

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