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ショタパパ ミハエルくん  作者: 京衛武百十
第一幕
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比較するのも

「そっか。そんなことがあったんだ」


自分達が宿泊しているホテルに戻り、一眠りすると、アオとまたビデオ通話で顔を合わせ、自分が経験したことを話した。


ホテルに帰ってきた時には、


「遅いよセルゲイ! 心配してたんだからね!」


安和(アンナ)がセルゲイに詰め寄る一幕があったりしたものの、遅れることはあらかじめ連絡してあったので、完全にただの八つ当たり、そして単なるレクリエーションだった。


その上で今はまたスイーツを食べに行っている。


なのでそちらはセルゲイに任せるとして、ほろ苦い経験をした我が子に、アオは穏やかに話しかけていた。


「世の中には本当にいろんな人がいるよ……


悠里(ユーリ)はその人のことを不誠実だと感じたかもしれないけど、その人から見たら、ダンピールであることを隠して人間社会に紛れ込んでる悠里のことが不誠実に見えるかもしれない。


悠里だって、<嘘>を吐いてるんだよ」


母親のその言葉に、悠里は、


「あ……」


と声を漏らした。


言われてみれば確かにそうだ。人間社会に溶け込むために悠里はたくさんの<嘘>を吐いている。それはあくまで人間と穏やかに共存していくための<方便>ではあるものの、


『事実ではない』


という意味では紛れもない嘘ということにもなる。


『理由さえあれば嘘を吐いていい』


のだとすれば、あの、<ササキ・ジロウと名乗った人物>にも、


『嘘を吐かなければいけない理由』


があったのかもしれない。


『自分は嘘を吐いてもいいけれど、他人が嘘を吐くのは許さない』


というのは、身勝手が過ぎないだろうか?


アオはそう言っているのだった。


「そうか……そうだよね……」


悠里もそれで納得してくれる。


これで納得できるのは、彼にそれだけの精神的な余裕があるからというのも事実だろう。


もとより、ダンピールである以上、彼は生物的には人間よりも圧倒的に優位にある。蚊を潰すような感覚で人間だって倒してしまえる。


その上で、彼は、父にも母にも恵まれ、彼を愛してくれる人々に囲まれて暮らしている。


精神的に余裕のない者に比べれば、比較するのも馬鹿馬鹿しいくらいに恵まれている。


こうなるともう、精神的に追い詰められている他人の事情を考慮する程度のことはわけもない。


このために、ミハエルもアオもセルゲイもさくらも、(あきら)恵莉花(えりか)秋生(あきお)も、彼や安和を受け止めてくれる。


それを思えば、あの余裕のない表情をした人間が嘘を吐いていたことなど、大したことじゃないようにも思えた。


あの<ササキ・ジロウ>を名乗った人物が、今回のことで懲りずにまた密漁をしてそれで逮捕でもされればそれはもう完全に本人が招いたことだ。


悠里には何の関係も責任もない。



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