パパもママもだ~い好き♡
なお、悠里と安和は、精神的には一応思春期にも突入しているけれど、その身体的な特徴とも相まって人間が言う<思春期>とは元々違うものだった。単に明確な自我が確立されることで自分と他者の違いというものについていろいろ考えてしまうだけである。
なので、その見た目と相まって何も違和感がない。
また、椿もみんなで一緒のお風呂が大好きなので、ただ楽しんでいるだけだった。
彼女が通う小学校のクラスメイトの中には、
『お父さんと一緒のお風呂とか、絶対に無理!』
と公言している女の子もいるものの、椿としては、
『ふ~ん、そうなんだ』
と思っている程度でしかない。彼女はもう齢十歳にして、
『自分と他人は違っていて当然』
という風に達観していた。他人と違っていることで不安になったりはしない。その必要がなかった。
だって彼女はとても愛されているから。
体を洗って頭も洗って、髪の手入れもして、みんなと一緒に湯船に浸かって、
「パ~パ♡ マ~マ♡」
そう甘えれば、
「は~い♡」
きちんと受け止めてもらえた。父親が吸血鬼だということも理解してるし、それが今の社会じゃ受け入れられないこともすでに理解してる。
けれどそんなことは瑣末な問題だった。
「椿、パパとママのところに来てくれてありがとう…」
そう言ってもらえるから。
自分が祝福されていることが分かるから。
「パパもママもだ~い好き♡」
素直にそう言える。
そうしてみんなでお風呂を楽しんで、
「ほわほわ~♡」
家族揃って桜色に染まって、まさにほわほわに緩んだ様子で上がった。
「はにゃ~♡」
「うにゅ~♡」
「にゃひ~♡」
悠里も安和も椿も、とろけたようにリビングで寛ぐ。
蒼井家には、基本、<自室>というものがなかった。アオの仕事部屋はあるものの、他には寝室しかない。なにしろ普段はリビングで集まって過ごすのだから。
一応、アオの仕事部屋の一部やリビングの一部を区切って<子供部屋>を作った時期もあったけれど、子供達の誰もそこにこもったりしなかった。なんだかんだと皆、リビングに集まってしまう。そこで家族全員で過ごす。
アオですら、仕事に特に集中する時には仕事部屋にこもるものの、それ以外は、リビングにノートパソコンを持ち込んで仕事をしている。
それが一番リラックスできるからだ。
今も、リビングに全員集まって、録画していた深夜アニメを一緒に視る。
コメディ調のアニメが好きなのは共通で、その上で、悠里はホラーやアクション物、安和は学園物やサスペンス物、椿はシュールギャグ系が好きだった。
けれど、基本的にどのジャンルのアニメでも楽しむことができるのだった。