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ショタパパ ミハエルくん  作者: 京衛武百十
第六幕
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こういう感じということだね

<吸血>と言うよりはそれこそほんの一口含んだだけのようなそれに、エイスネは戸惑っていた。


そんな彼女の前で、


「ありがとう。助かった」


メイヴが口にするとスタッフの女性も、


「いえ、こちらこそお役に立てて光栄です」


と応えて丁寧に礼をし、部屋を出て行った。


それを見届けた後、メイヴはエイスネに向き直り、


「こういう感じということだね」


柔和な笑顔を浮かべた。


「……」


どう応えていいのか分からないエイスネに、


「本当はもっとたくさん吸おうと思えば吸えるんだけど、別にその必要はないんだよね。薬を飲むみたいなものなんだ。乳だけじゃ抑えきれない分を吸血で補ってるだけだから。しかもエイスネの場合はそれこそ乳だけで間に合ってるみたいだから、別に吸血する必要もない。こういうことなんだよ」


併せて説明した。


「……そうなんですね……」


ようやくそれだけを呟いたものの、当然ながらまだ完全には納得もできていない。さりとて、こういう小さな積み重ねが信頼をつくっていくことは間違いないだろう。


いくらでも取り繕うことができてしまう<言葉>だけでは、本当に事実か否かを確認することができない。エイスネ自身の目で耳で皮膚感覚で実際に確認していってこそ腑に落ちるというものなのだから。


ゆえにメイヴも、エイスネがまだまだ半信半疑であることは承知した上で、彼女に対して穏やかに接する。


『ここまで言ってやってもまだ疑ってるのか!?』


的に声を荒げたりもしない。そのようなことをすればなおさら信頼が遠のくといるのを承知しているからだ。


<強要>は、


<必要な手間や時間をかけたくないという甘え>


である。それを理解すればこそ必要な手間も時間もかける。何しろ吸血鬼には時間はたっぷりあるのだ。


かけるべき手間や時間を惜しんでいては、良い結果は得られない。それを裏付ける実例は日常の中にも溢れているはずだ。問題はあくまでその事実を認めるか否かである。


事実を事実として認めなければ、事実に基づかない虚構によって取り繕うことになる。そしてそれは多くの場合、いくつもの瑕疵を生み、その瑕疵を取り繕うためにさらなる虚構を重ねるという泥縄へと陥っていく。


それを示す実例も、人間社会には無数に溢れている。にも拘わらず人間はその事実に目を瞑り、虚構に虚構を重ね、無理筋の力技で目先の問題を誤魔化そうとしていく。


それによって数え切れないほどの不幸を生み出してきたというのに、なおも目を瞑り続けようとする。


『自分が生きている間だけとりあえず何とかなればいい』


寿命が短いがゆえにそんな甘えがまかり通ってしまうのだろう。



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