おまえ、可愛い奴だな!
<自分語り>というものを嫌う人間も少なくないけど、それを語りたがる人間はあくまで必要があってそうしてるんだろうから、あまり毛嫌いするのも違うんじゃないかなと僕は思う。もちろん、<聞かなきゃいけない義務>はないんだけどさ。
だけど今のイゴールにはたくさんの経験が必要だから、これもその一つになるだろう。
しかもイゴール自身、一緒のテーブルに着いて、ディマが用意してくれたオレンジジュースを口にしながら聞き入っていた。彼自身、他者のそういう話に興味が湧いてきてるのかもね。
これまでは一方的に一部の人間にとって都合のいい話だけを吹き込まれてきたというのが彼の人生だった。けれど、今、ここにあるのは、等身大の生身の人間の姿だと言えるかな。格好そのものはかなり奇抜でも。
ただ、
「悪ぃ、ドートは承認欲求が強くてね。いきなり身の上話されても困るだろ?」
今度はカミラがそう口にした。けれどこれに対しては、
「いや、そんなことは。正直、楽しいって言うか」
イゴールも素直な気持ちを口にする。と、
「おまえ、可愛い奴だな! 今夜、あたしの部屋に来るか?」
ドートが嬉しそうに言う。
「え……っ!?」
さすがにイゴールも驚いて言葉に詰まった。するとディマが、
「こらこら、ウブな若者をからかうんじゃない。お前だってまだ二十になったところだろうが」
嗜めるように。そうか。道理であどけなさが残ってたわけだ。もっとも、吸血鬼である僕にはその辺りも察することができてたけどね。年齢もある程度、匂いで分かるから。
「うっせ、お前は逆に三十のババアじゃねーか!」
ドートは言い返すものの別に本気で怒ってるわけじゃない。でも、ディマは三十ということになってるんだな。姿は変わらなくてもそれなりに長い付き合いになるとある程度はそういうことにするしかなくなるしね。
「あはは! バレちゃったか。三十にもなってこんなことしてるの、やっぱ呆れるかい?」
ディマは今度はイゴールに尋ねてきた。けれどこれに対しても、
「そんなことない! 俺はカッコいいと思う!」
これも彼の正直な気持ちだった。そこに嘘がないことは匂いで分かる。当然それはディマにも分かるから、
「嬉しいねえ。そう言ってもらえると。だよな、歳は関係ないよな。いくつになっても表現したいってことはあるよな」
彼女は笑顔を浮かべて言った。これも彼女の本心だろうな。もちろん彼女が本当に三十歳どころじゃないのは僕には分かる。たぶん、僕よりは年上なんだろうけど、気持ちの上ではそうなんだろうな。




