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ショタパパ ミハエルくん  作者: 京衛武百十
第六幕
647/697

依頼者

そうしてヘルメスが捜査を行っていると、一人の男性が彼の<事務所>を訪れた。


「娘を殺した奴を見付けてほしいんです」


男性は、彫金職人だという。


「お名前は窺っております」


メイドが淹れてくれた紅茶を口に含みつつ、そう告げる。というのも、男性は、著名とまでは言い難いものの知る人ぞ知る彫金職人であったからだ。ゆえに様々な情報に触れることがあるヘルメスの耳にもその名は届いていたのである。


そして男性は、テーブルの上に布にくるまれた工具を広げ、


「金は、道具を売ってでも作ります。だからお願いです! 娘を殺した奴を探し出して、仇を取ってください……!」


床に打ち付けるかのような勢いで頭を下げて、懇願した。するとヘルメスは、すっと立ち上がり、部屋の窓のところまで行って外を眺め、何か思案していたようだった。


だがそんな彼に対して、男性が動いた。それこそ弾かれるかの如く。手にはナイフを握り締めて。


そのナイフがヘルメスの背中を捉えるかと見えた瞬間、


「!?」


彼の姿が消えた。まるで映像トリックのいわゆる<コマ堕とし>のように。


体ごとぶつかる勢いでナイフを突き出した男性はその勢いのまま開けられた窓から飛び出してしまい、転落しそうになる。なるものの、何かに引っかかったのかそこで止まる。止まると同時に、部屋に引き戻されて、


「困りますね。ここはまあまあ気に入ってる物件なんです。騒ぎを起こされては住みづらくなる。住居も兼ねてますから」


背後から声を掛けられた。するとそこには、涼しい笑顔のヘルメスの姿。


「な……いつの間に……!?」


男性はそう言ったが、言いながら再びナイフを彼に向って突き付けようとしたが、もう体が動かなかった。それどころか、まるで人形のようにその場に崩れ落ちる。


そんな男性を笑顔で見下ろしながら、


「本当に凝りませんね」


呆れたように呟く。そこに、紅茶を淹れてくれたメイドが現れ、動かなくなった男性をただの人形でも持ち上げるかのように軽々と抱え上げる。見たところ、まだ十二~十三歳くらいの少女と思しき姿をしているというのに。


「……」


ヘルメスが何も言わなくても、メイドの少女はそのまま部屋から運び出してしまった。『いつものことだ』とでも言わんばかりに。


いや、実際にいつものことだった。ヘルメスのことを疎んでいる者は少なからずいて、その者達がこうやって<刺客>を差し向けてくるのだ。これが彼の<日常>だった。


その後、依頼者を騙った刺客がどうなったかは分からない。



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