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ショタパパ ミハエルくん  作者: 京衛武百十
第六幕
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魔女の疑い

そんな十七世紀、現在ではドイツの国土とされている辺境の小さな町でも、<魔女狩り>は行われていた。しかもそこでは、行政に把握されていないそれが頻発しており、一般的に言われている被害よりもかなり深刻なものであった。


なにしろ、その地を治めていた領主ではなく、領主に取り入った豪商が実質的にその町を支配しており、都合の悪いことについては公式な記録を残さなかったようだ。それゆえ、わずか三十年の間に当時の街の住人三千人のうちの少なくとも一割が何らかの形で消息を絶っていたという。


しかもこのことは公には知られていなかったため、被害としてもまったく計上されておらず、歴史上からも完全に抜け落ちていた。


そこで靴屋を営んでいたライリーの妻<ヘレン>は、豪商に見初められて召し上げられそうになったのを断ったことが原因となり魔女の疑いを掛けられた。


すると、近所の住人らがヘレンとライリーに対して、


『魔女と魔女の夫だ!』


として、家に石を投げたり水を掛けたり、果ては糞を投げつけたりし始めた。


この頃、ちょうど十四世紀のペストの大流行に匹敵する大変なペストの流行があったこともあり、加えてそれが魔女の仕業であるとまことしやかに囁かれていたこともあり、疫病に対する忌避と相まって過剰な反応を示してしまったのだろう。


なにしろ、イングランドやイタリアではペストにより壊滅したコミュニティなども実際にあって、さらにその事実を過度に煽るかのような新聞や創作物の刊行も横行、当時はまだその種のメディアはあくまで上層階級が嗜むものであったものの人伝という形で庶民の間にも広まり、不安や猜疑心を駆り立てた。人伝ゆえに尾ひれが付いたり面白おかしく改変されたりという部分も多かったのも事実だ。


だからこそ、ヘレンとライリーが住んでいた町でも、


『魔女がペストを撒き散らそうとしている』


などという噂が立てば、住民は自衛のためにも行動を起こさずにいられなかったのだろう。


正しくない情報を流布することも卑しい行いではあるものの、そもそも正しい情報を正確に伝えることが難しかったという当時の情報インフラの未発達と、ペストをはじめとした疫病の蔓延、幾度となく起こる農作物の不作に伴う飢饉といったマイナス要因が不運にも重なったことで、


『必ずしも悪意があってのものではないが、猜疑心が不安を大きく育て、過度な反応を呼び起こした』


的な事象が連鎖したという面もあったのだ。


そうしてヘレンは、近所の住人らの手によって魔女としてリンチを受け、殺害されてしまったのである。



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