ホントに勘の鋭い奴だな
いずれにせよ、エルビスの眷属としてヴァンパイアとなったエドマンドと、そこまで危険な状態でなかったことにより人間のままで保護された者達を乗せた荷馬車は、エルビスの仲間達が運営する診療所がある町へと帰ってきた。
するとドロレスがまた彼を見付けて、
「お疲れ様。メアリーも一緒だったんだ?」
声を掛けてきた。
「まあね。くそったれな故郷の有様を見届けて笑ってやろうと思ってね」
悪態を吐きつつ肩を竦めるメアリーの様子に、ドロレスは苦笑いを浮かべ、エドマンドも困ったように引き攣った笑みを浮かべた。
そんな彼を見てドロレスは、
「彼もひょっとしてクラン?」
エルビスに問い掛ける。
「ああ、よろしく頼む。僕はこっちの患者に対処しなきゃいけないから」
それを受けてドロレスは、エイスネの時と同じように、
「あなたはこちらに」
指し示しつつ、
「メアリーが一緒ということは事情は聞いてるのかな?」
とも確認した。エドマンドもそれがヴァンパイアのことであると察して、
「あ、ああ。聞いてる」
少し戸惑いつつも応えた。
「分かった。じゃあ、メアリー、あなたが彼の担当ということでいい?」
ドロレスに尋ねられてメアリーも、
「ま、流れ的にはそういうことになるよね」
肩を竦めながらも承諾する。
「ははは……」
幼馴染のそんな態度に、エドマンドはやはり苦笑いを浮かべるしかできなかったが、それでも、
『ぜんぜん知らないヤツをあてがわれるよりはマシか……』
とも思い、ホッとするのを感じていた。するとメアリーは、
「なによ? 不満でも?」
突然振り返って口にしたことにエドマンドはギョッとなる。
「い、いや、そんなわけじゃ……!」
慌てて手を振るが、
『ホントに勘の鋭い奴だな……』
そう感じていた。もっとも彼女のそれは、単なる<勘の鋭さ>ではなかったが、彼がそれを知るのはもう少し後になる。今はとにかく、安心できるようにすることが必要だった。
家族を喪ったこと。そして、死んだ自分の子の肉を食べて生き延びてしまったことについて向き合っていくには、それに適した環境が必要だった。一人ではおよそ乗り越えられないであろうその現実を自らの中に落とし込んでいくことで、これからの人生を生きていけるようになるのだから。
『彼は、私よりもつらい経験をしたんだよね……』
メアリーも、表向きは辛辣な態度も取りながら、内心ではそう理解もしていた。貴族に金で買われ、ヴァンパイアの実験材料にされ、いつの間にか自身もヴァンパイアにされていたとはいえ、少なくとも彼女は、生活面ではそれなりに恵まれていたのだから。




