彼女の憎悪が本物であると
『許すつもりなんかないんだよ』
ベール越しでも、明らかに憎悪を滾らせた表情でメアリーが吐き捨てるように言ったのが分かった。それだけでなく、ビリビリと痺れるような感覚がエドマンドにも感じ取れた。彼女の憎悪が本物であると、直感として察せられてしまう。これもヴァンパイアになったからだろうか。
「復讐、したいのか……?」
恐る恐る問い掛けるエドマンドに、メアリーは、
「まあね。できることなら私のこの手で殺してやりたいよ。あいつに血を吸われるのを『気持ちいい』と思ってしまった自分も嫌。汚いと思う。私はもう昔の私じゃないんだ……」
自分の体を抱きしめるようにしながら、絞り出すように口にした。
彼女にとってはそれほどのことであるというのが伝わってくる。まるで純潔を奪われたかのような感覚があるのだろう。だからエドマンドはつい、
「でも、お前はお前なんだろう? お前じゃないものになっちまったわけじゃないんだろう? たとえヴァンパイアになってもよ……」
そんな風に声を掛けてしまった。しかしこれに対しては、
「はあ? あなた、さっきは『お前はメアリーじゃない』みたいなこと言ってたじゃないのさ?」
実に辛辣な返答を。
「あ! いや、あれは、その……!」
エドマンドは痛いところを突かれて狼狽える。それでいて、ハッと思い立ち、
「あれは、俺が本当のお前の姿を知らなかったから……! 俺が勝手に思ってたお前の姿をあてはめてたから……! それと、お前がお前のままかどうかってのは、別の話だろ!?」
と付け足した。不思議と頭の中が冴えていて、そう考えられてしまったのだ。するとメアリーも、
「はいはい、そういうことにしといてあげる」
呆れたように肩を竦めて言い放った。それから苦笑いを浮かべて彼を見る。その視線にいたたまれない様子ながらもエドマンドも、
「悪い……俺がガキだった。なんも分かってないガキだったってのは確かだよ。でもよ、メアリー、俺はお前が生きててくれてよかったと思ってる。それは嘘じゃねえ……嘘じゃねえんだ……」
そう口にした。彼が嘘を言ってるのでないことは、メアリーにも察せられた。無学で気の利いた言い方はできないかもしれないが、本心であることだけは確かなのだ。
だから、
「まあ、それについてはありがと……私も、あなたが生きててくれてよかったと思う……」
憮然とした表情ながらもそう返す。そしてその言葉が嘘でないことが、なぜかエドマンドにも察せられてしまったのだった。




