比較のしようがない
確かにエドマンドは、ここ数年、非常に偏った食事と過酷な農作業を続けていたことで体調が<普通>だったことがなかった。だから今、ヴァンパイアになってしまったことで非常に体調がいい感じがしていても、本来の自分の調子がどんなものであったのかが思い出せないので、比較のしようがないのだ。
その点、メアリーの方は、地下に閉じ込められてはいたものの、基本的には快適な部屋で食事もきちんと食べられていたことで体調がよくなり、それに比較する形で自身の変化を感じ取れてしまったのである。
「まあとにかく、二ヶ月くらいした頃にそうやって自分がヴァンパイアになっちゃったのに気付いたんだ。だけどそうしたら今度は私で実験してたヴァンパイアが来なくなっちゃってさ。だから当然、地下に閉じ込められたままで食事ももらえなくなって。三日目くらいに『これはヤバい』って思って、逃げようと思ったんだ。そしたら、それまではびくともしなかった上に出る扉を自分で開けられたんだよ。ヴァンパイアになったことですごい力を出せるようになったんだよね」
肩を竦めて『やれやれ』という感じでそう言った彼女に、エドマンドも、
「そうなんだ……」
唖然とした様子で口にする。その上で、
「でも、大丈夫だったのか? 他に見張りとかは?」
疑問を投げ掛けた。それに対しては、
「誰もいなかったよ。それまではヴァンパイア以外にも誰かいるような気配はあったけど、そっちもなくなってた。結果が出たから用なしになったってことかもね。で、そこに他のヴァンパイアがやってきてさ」
また腕を組んで憮然とした様子に。
「そいつの仲間か?」
「ううん、違う。逆に私を助けに来てくれたんだ。私をヴァンパイアにしたそいつはさ、他のヴァンパイアにとっても厄介者で、追われてたみたい。で、そん時に、私を買った貴族がヴァンパイアに殺されたってのも知った。たぶん、他のヴァンパイアに目を付けられたから消されたってことだろうね」
「それはまあ、自業自得だよな」
「そん時の私は、貴族に売られたことで親も恨んでたしさ、家に帰る気にもなれなくて、私を助けに来たヴァンパイアと行動を共にすることになった」
そこまでやり取りしたところでメアリーは険しい表情になり、
「でも、そこで助けられてなかったら、私はたぶん、ヴァンパイアハンターに殺されてたってさ」
と。その様子にエドマンドもギョッとなって、
「ヴァンパイアハンターって、ヴァンパイアを殺す奴ってことか……?」
恐る恐る尋ねたのだった。




