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ショタパパ ミハエルくん  作者: 京衛武百十
第六幕
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為政者の責任を問うのは

だからエイスネにはどうして自分がこうなってしまったのか、詳しいことは分からない。分からないからつい、シチューを口にしながら、


「どうしてこんなことになったんですか……?」


問い掛けてしまった。いや、『問い掛けた』というよりはほとんど<独り言>に近いそれだっただろうか。声も小さくてともすれば聞き逃してしまいそうな。


けれどメイヴには聞こえていたようだ。


「どうしてこんなことに、っていうのは、今回の飢饉のこと? それとも自分がどうして助かったかってこと?」


問い返す彼女に、エイスネは、


「飢饉のこと……です」


改めて言葉にした。ただ同時に、メイヴに尋ねられて『どうして自分がたすかったのか?』という点についても気になってしまったが、今はとにかく飢饉のことについて訊きたかった。どうして自分達家族がこんな目に遭わなければいけなかったのかを知りたいと思った。


それに対しては、


「こればっかりは、ジャガイモをダメにする病原菌の所為としか言いようがないかな。確かにちゃんと病原菌が広まらないように対処すればよかったんだけど、ここまでのことになるとはなかなか予測もできなかったからね」


事実ではありつつ敢えて当たり障りのない返答をする。というのも、これまたこの地を支配する貴族達の失策が被害を拡大させたという一面もあるものの、それをことさら喧伝して貴族への憎しみを駆り立てることは、彼女達の目的ではなかったからだ。彼女達はあくまで被害者の救援であり、為政者の責任を問うのはまた別の者達がするべきことだと考えていた。


そして、


『彼女がするべきことでもなくなってしまったけどね……』


メイヴはそう考えていた。しかしそれは言葉にはせず、


「そうですか……」


悲し気に俯きながらもシチューを食べるエイスネをただ見守った。今はそれしかできることがなかった。


そしてエイスネがシチューを食べ終えると、


「もしよかったらおかわりもあるけど、どうする?」


問い掛けた。これにはエイスネも、


「あの……いいですか……?」


遠慮がちに応える。するとメイヴは、


「もちろん!」


嬉しそうに笑顔で言った。食欲が出てきたのが嬉しかったようだ。エイスネ自身も、自分がそんなに食べられるようになったのが不思議ではありつつ、素直にそれを受け入れられた。


なんだか自分が生まれ変わったような気さえする。


そこに、まるでやはり待ち構えていたかのように次のシチューを手にしたスタッフがドアをノックしたのだった。



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