その罰を受けて
『パパを食べちゃったからその罰を受けて、死ななきゃいけなかったのに』
その少女の言葉の意味を、エルビスは察していた。他の家で見た、捌かれたと思しき子供の遺体を見ていたがゆえに。
「そうか……でも、君は死ななかった。ということは、君のパパは君が死ぬことを望まなかったということだ。自分を食べてでも君に生きていてほしかった。そういうことなんだよ……」
エルビスは諭すようにそう口にする。それが詭弁であることは彼自身も理解してるのだろう。けれど、その詭弁が必要になることもあるのを承知しているということだ。
<心を持つ者>が生きていくには、時には詭弁も必要になる。それは事実であろうから。
「……」
少女はそれには応えることもできず、その場に蹲って体を震わせた。
「う……うう……ううううう~……っ!」
抑えきれない慟哭が、室内の空気を震わせる。エルビスは、少女が落ち着くのをただ待った。今は何を言っても届かないのが分かっているようだ。医師であるからこそ、数多くの残酷な現場に立ち会ってきたということか。
そんな時、言葉は無力になる。その事実も、彼は思い知ってきたのだろうか。
たっぷり十分以上、少女は自身の感情を吐き出し、静かになった。体の震えもかなり収まってきている。
普通ならそんな簡単には収まらないかもしれないが、エルビスには分かっていたようだ。
こうなることが。
そうして、
「……パパが私に生きててほしいと思ってるって、本当……?」
少女はようやく頭を上げて、改めて問い掛ける。泣き腫らした目と向き合い、彼は応えた。
「もちろん。親とはそういうものだ。自分の命を賭しても我が子を生かそうとするものだよ」
これまた必ずしも事実ではないことも彼は知っているに違いない。彼がこれまで実際に見てきた現実の前にはそんな綺麗事はまったく通用しないことを。
しかし、『それでも』なのだ。それでも人間は詭弁でこそ納得できることがあるというのもまた事実ではあるし、そんな事例についても無数に目にしてきた。だから必要とあらば詭弁であろうと嘘であろうと大言壮語であろうと使うということなのだろう。
そして少女も、その詭弁により体を起こすことができた。そんな彼女に、エルビスは、
「それでいい。君のパパもママも、君が生きることでこそ救われる。神の下に赴くことができる」
穏やかに語り掛ける。
「立てるかい? 無理なら背負っていこう。とにかく私の仲間達が準備している診療所で君を保護したい」
彼に言葉に、
「はい……立てます……」
少女は応えたのだった。




