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ショタパパ ミハエルくん  作者: 京衛武百十
第五幕
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悲壮な決意をした人間の匂い

生きるために戦うというのは、命を持つ者なら当然のことだよ。だけどね、人間の場合は、


『生きるため』


だけじゃないのも事実だよね。


『自分の欲を満たしたいから』


『生きるために必要なそれ以上の諸々を手にしたいから』


『今よりもっといい暮らしをしたいから』


そんな理由で、他者からリソースを奪うために暴力に訴える。イゴール達の国も、あくまで生きるということを主眼に置くなら、決して、


『生きることさえままならない』


なんていう状況じゃないんだ。テロリスト達も、


『自分達の国と誇りを取り戻す』


ことを目的にテロを行ってる。そして、オレーナのような子供まで人間爆弾に仕立て上げて殺したんだ。


僕達吸血鬼からすると人間の言う<誇り>なんて何の価値もないんだけどな。全く別の種族だから当然だけどさ。


そしてこう言うと猛然と怒り出す人間がいる。


<誇り>を命よりも大事だと考えるのは、個人の信条の範囲であれば勝手にすればいいと思う。だけどね、それを他者にまで強要しようとするからこそ衝突が生まれるんだよ。オレーナには彼らの思う誇りなんて何の関係もなかったんだろうね。彼女はただ、イゴールと幸せに暮らしたかっただけだ。


あの爆発の瞬間にも、彼女からは、


<悲壮な決意をした人間の匂い>


は生じていなかった。彼女は本当にただ何も知らずにそこにいただけなんだよ。それなのに大人達が、彼女を、自分達の<国や誇りといったものへの執着>のために利用したんだ。


しかも、イゴールでさえ、本心では国や誇りについては何とも思っていなかった。彼もただ、家族を奪われた憎しみを感じつつも、唯一残されたオレーナの幸せだけを願ってたんだよ。


彼自身が、


「俺には、国がどうとか民族の誇りとかもどうでもよかった。ただ俺達をこんな風にした奴らが許せなかっただけだ。奴らに復讐して、それでオレーナには幸せになってほしかっただけだ……」


と語ったからね。その時に彼の体から発せられていたのは、<嘘の匂い>じゃなかった。彼の本心だった。


長く生きた吸血鬼の中には、自分の感情そのものを操って<嘘の匂い>を生じさせずに嘘を吐くことができる者もいるとは聞くけど、それはセルゲイでさえできないことだった。かなり感情を抑えることはできても、完全じゃない。もちろん僕もね。


そもそもまだ完全には匂いで相手の感情とかを読み解くことができない悠里(ユーリ)安和(アンナ)には、それこそまったく実感のないことだと思う。


だから当然、イゴールにもできることじゃない。


人間にもたまに、自分自身さえ完全に騙しおおせるのもいるけど、イゴールはそういうタイプじゃないしね。



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