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ショタパパ ミハエルくん  作者: 京衛武百十
第五幕
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俺はまだ、こんなに弱っちいのかよ

『力を見せつけて他者を威圧する』


それは、大国が小国を従わせようとする時に使うものだ。


強盗が被害者に対してナイフや拳銃をちらつかせるようなものだ。


ましてや安和(アンナ)がイゴールを相手にそれをするというのは、たまたまダンピールに生まれついただけの自分の力を笠に着る行いだ。


だから決して褒められたことじゃない。そのことは安和に分かっていてもらわないといけないな。だけど、安和にもそれが分かってるのは僕も実感してる。ただ、この時点でのイゴールにはそれこそが大きな説得力になるからね。


彼は、<力を持たない者>がただただ理不尽に虐げられる現実の中で生きてきた。大国を相手に抗う術を持たなかった小国に生まれついてしまったがゆえに両親を喪い。そしてまた、唯一の家族であるオレーナを喪った。


『力を持たない者は力を持つ者に何をされても仕方ない』


というのを、とことん思い知らされてきたんだ。それが彼の人生だった。だから、力を持たない者が言葉だけで何を語っても彼には届かないだろうね。


けれど、目の前の、五歳とか六歳とかくらいにしか見えない幼子が自分よりもはるかに大きな力を有していて、だからこそ『私に勝てるとでも思ってんの?』という言葉に途轍もない説得力があるのを、彼は改めて思い知らされていた。


だけど同時にそれは、彼にとっては途轍もない屈辱でもあっただろうな。


「俺は……俺はまだ、こんなに弱っちいのかよ……」


吸血鬼としての超感覚を得たからこそ、相手と自分の力の差が、試さなくても分かってしまうことに彼は打ちひしがれていた。


<虚無>が、イゴールを圧し潰す。


「安和、それくらいにしておいてほしい」


シャワーを浴びつつ僕が口にすると、


「……分かってるよ…分かってる……」


安和もそう応えてくれた。まだ自分の感情を上手く制御できないけれど、頭では分かってきてくれてるんだ。上手く自分の感情を制御できないのは、吸血鬼としては幼いから当然でもある。僕も、それ自体を責める気はない。


そうして僕はシャワーを終えて部屋に戻り、入れ替わりに安和がシャワーを浴びる。


「俺は……どうすればいい……?」


僕と二人きりになって、イゴールは改めて訊いてきた。彼にとっては本当にどうすればいいのか分からないんだろうね。吸血鬼になって力を得たけど、人間としての感情とは噛み合わず、しかも得たはずの力も、同じ吸血鬼の世界では幼児にすら敵わないようなものでしかない。


「これじゃ今までとなんにも変わらないじゃないかよ……」


『生まれたばかり』の彼にとっては、この世界は本当に訳が分からないものなんだろうね。



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