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ショタパパ ミハエルくん  作者: 京衛武百十
第五幕
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その匂いがどんな感情から生じているものか

「シャワーを浴びたらいいよ」


泣いているイゴールに、僕はバスルームを指差しながらそう声を掛けた。


「……」


彼は言葉では応えずに、のそりと立ち上がってバスルームに入っていく。ここのバスルームは湯舟があるタイプだけど、それはたいてい、シャワーを浴びた時にバスルームの外にまで水や湯が流れ出さないように受け止めるために使われる。湯舟に湯を溜めて体を浸ける入り方をする習慣がある人間達は、実は少数派だったりもする。だから、湯船から湯が溢れるような入り方をすると、バスルームの外にまで湯がこぼれたりするんだ。


特に日本人はたっぷりと湯を使いたがるから、このホテルでもたまに日本で暮らしていた者達がそうやって部屋の床を濡らしてしまったりもする。


ただ、『湯をたっぷり張った湯船に体を浸ける』という入浴方法が徐々に広まりつつもあるから、このホテルも、設備の更新が行われる際には、<ユニットバス>という形で、それがしやすいものに交換していく予定なんだって。


と、そんな余談もはさみつつ、イゴールの複雑に絡み合った感情の残り香を確かめていく。


オレーナを死なせた人間達への激しい憎悪もありつつ、テロリスト達の思惑に気付けず妹を巻き込んでしまった自分自身への強い怒りも多いね。そしてオレーナを喪った悲しみ。眷属になってしまった戸惑い。さらには自分を勝手に眷属にした僕への不信感というものも感じ取れる。


『どうして匂いだけでそこまで分かるんだ?』


って? もちろん吸血鬼が持つ超感覚があってこそのものだけど、確かに<匂い>だけじゃ判別はできないよね。それは事実だ。だからその匂いがどんな感情から生じているものかについては<経験>が必要なんだよ。多くの人間と関わって、その人間が発している匂いと実際に表している感情とを突き合わせていくことで分かるようになっていくんだ。


加えて、表情とか仕草とか、そういうものすべてを総合的に探知してるというのもある。その意味では、悠里(ユーリ)安和(アンナ)はまだまだおぼろげにしか掴めていないんだ。細かいところまで察することができるようになるには、まだ数十年の時間が必要だと思う。


僕自身、マデュー達と出会った頃には、十分には分かっていなかった。しかも、戦争中だったこともあってそれこそ多くの人間達の強い感情の匂いが渦巻いていて、余計に判別が難しくなっていたというのもある。


だからといって僕の行いが正当化されるわけじゃないけどね。



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