君が自爆テロで死ねば
人間が、
<とにかく自分に甘い、感情の動物>
だというのは分かってる。<誇り>なんてものを声高に叫ぶのも、それに拘りたい自分の感情を正当化したくてしてることでしかないのも分かってる。
人間以外の生き物は、<誇り>なんてものを優先して生きてるわけじゃない。こう言うと人間はまた、
『人間は他の生き物とは違う!』
と口にするんだ。なのに、
『自分達が生きるためには戦うしかない! これは生き物として当たり前のことなんだ!』
とか詭弁を並べる。『他の生き物とは違う』と言いつつ自らの行為を正当化するためなら『人間も他の生き物と同じだ』と、矛盾に目を瞑るんだ。
本当にみっともないよね。
だけど僕は、そんな人間という生き物そのものを否定はしないよ。アオやさくらを生んでくれたのも人間という生き物なんだから。
そして、今、僕と安和の目の前にいる少年のことも、ね。
「僕には、君が復讐のためにテロを続けるんだとしても、それを止める権利はないよ。この国のことはこの国の人間である君達が考えるべきことだし。だけどね、それと同時に、君達が起こすテロによって命を失う人間達のことも軽んじていいとは考えない。それだけの話だ」
と語る僕に、彼は、
「なに言ってんだ! 俺達は、裏切者を倒さなきゃいけないんだ! そうじゃなきゃ、死んでいった連中に顔向けできない! 俺の祖父さんもオヤジもオフクロもあいつらに殺されたんだぞ!?」
と声を上げる。公園に入る他の人間にはほとんど聞こえないように音量は抑えてるけど、強い感情はまったく抑えられていなかった。彼に掛けた魅了は弱いものだったからというのもあるし、弱くても魅了が掛かっているのに抑えきれないほどの強い感情だということでもある。
そしてさらに彼は、
「オレーナはまだ十二なんだ……! あいつまで戦わせるわけにはいかない! 俺は戻って戦うんだ……!」
とも口にした。到底、翻意させられるような印象はなかった。強い魅了で強引に操ってしまうことは容易いけど、それは根本的な解決にはならない。単に目先の問題を見えなくするだけだ。
その上で、僕は彼に、
「だけど、君が自爆テロで死ねば、次はそのオレーナの番じゃないかな?」
と告げた。
「それは……!」
そこでようやく気付いたらしい彼がハッとなる。その程度のことにも気付けないほど視野狭窄に陥ってたということだろうね。
これ自体も、まったく珍しくもないことだ。<自爆テロ>なんてことができてしまう人間は、それこそ都合の悪いことを頭から追い出すことができてしまうんだからね。




