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ショタパパ ミハエルくん  作者: 京衛武百十
第五幕
558/697

ただただ犠牲ばかりが増えていく

そうして安和(アンナ)と一緒に買い物をして、夕暮れの中で散歩していると、


「ああ……うあああああーっ!! ジェナ、ジェナあーっ!!」


叫ぶみたいな人間の女性の泣き声が聞こえてきた。それは墓地だった。喪服を着た何人もの人間がいて、その中で三十代くらいの女性が地面に突っ伏して慟哭している。


「どうして罪もないこの子がこんな死に方をしなきゃいけないんだ……!」


「テロリストどもめ……!」


そこにいた人間達の会話から察する。昨日のバス停でのテロ事件で犠牲になった子供の葬儀だということを。


テロリスト達は、


『誇りと国を取り戻す』


ことを大義として掲げているけれど、敢えて現状を受け入れて日常生活を営んでいる人間達にとっては、どんなに詭弁を並べても、ただの<殺人>にすぎない。ましてや幼い子供にとっては、そんな大人の都合なんて、それこそまったく関係ない。


『暴力で解決を図る』


というのは、こういうことだ。しかも大国にとっては、この程度のことは痛くも痒くもない。むしろ、強硬な支配を強めるための根拠にさえなっている。


『軍事作戦によってテロリストの殲滅を図らねばいけない』


的なことを、その大国の首長は口にしていたりさえする。暴力による解決を図ることで、相手側のさらなる暴力を引き出す流れに向かいつつあるんだ。


相手側にこそ、


『暴力による解決を図るしかない』


って考えさせているんだよ。


そして、双方ともに『暴力こそが問題を解決する』と考えているから、落としどころがない。


<暴力以外の落としどころ>


ということになればそれは、『暴力で解決を図る』というのとは違う。


しかもテロリスト側は、国際社会の支援頼みで、自分達の力で国を運営していくための明確な根拠のある展望というものを持っていない。


だからこうして、ただただ犠牲ばかりが増えていく。


「……」


安和は、両手で自分の耳を塞いで、僕に体を寄せてきた。僕にとってもその女性の慟哭は、アオのそれのように聞こえてしまう。


悠里(ユーリ)や安和は、人間が起こすテロごときで命を落としはしないと思うけど、椿(つばき)はその限りじゃないからね。さらには、さくらや恵莉花(えりか)秋生(あきお)も、ただの人間だ。しかも、さくらや恵莉花や秋生にもしものことがあれば、それこそエンディミオンを止めることはできなくなるだろう。


彼なら、たった一人で大国そのものに戦争を仕掛けることすらするだろうな。


結果、彼は死ぬことになるかもしれないけれど、彼が命を落とすまでの間にどれだけの犠牲が出ることになるか、想像もつかないよ。



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