戸惑うしかできなかった
父親も男も、自分達がすごんでも掴みかかってもまったく怯むこともないセルゲイに、戸惑うしかできなかった。
たぶんここで彼が怯むような様子を見せていたらさらに調子付いて大きな態度に出たところなんだろうけど、怯まない、揺らぐことさえない、その事実に、どう対処すればいいのか分からなくなったんだろうね。
せめてセルゲイが声を荒げるような態度を取れば喧嘩腰にもなれたとしても、冷静に淡々と対応されたから感情も上滑りしてしまう。
そこに、
「なにをやってる!?」
今度は警官が駆け付けた。すると<父親>も<男>も、
「このガイジンが言いがかりを付けてきたんだ!」
「なにも分かってねえクセによ!」
口を揃えてセルゲイを貶める。
だけどそれ自体、どこの国でも珍しい話じゃなかった。『正しいのは自分達』で、『得体のしれない外国人が悪い』ことにされるのもいつものことだ。だからセルゲイもまったく慌てない。
「パスポートを見せろ!」
あからさまに横柄な態度を取られても平然とパスポートとビザを示す。僕と悠里と安和は気配を消したまま成り行きを見守った。
「……」
安和はそれこそ険しい表情になってたけど、今は抑えてくれてる。この程度じゃセルゲイはまったく意にも介してないのは分かってくれてるからね。
なのに警官は、
「とにかく署に来い。もっと詳しく調べなきゃならん!」
ますます横暴な振る舞いになってセルゲイの肩を掴んだ。でもその時、
「違うよ! その人は私を助けてくれただけなんだ!」
<娘>がたまりかねた様子で声を上げた。
「悪いのはこいつ! こいつが私を叩いて蹴ろうとしたんだ!」
父親を指差して事実を告げる。けれどそんな娘に対して父親は、
「お前は父親に対して何を言ってるんだ!! この恩知らずが!!」
「なんでこんなのに育っちゃったんだろう! 情けない!!」
母親と一緒になって憤る。さらには<男>も、
「最近の若い奴は本当に親を敬うってことをしない! こんなことじゃ国が亡ぶぞまったく!」
とかなんとか。
それが彼らの<正しさ>なんだ。自分達がとにかく正しくて、それ以外は間違ってる。だから反省もしないし改めもしない。
こうして警官はセルゲイをパトカーに乗せようとするんだけど、女性が、
「どうしてこの人を連れてこうとすんの!? この人はなんも悪くない!!」
と叫んで、
「ちょっとこのガイジンがいい男だからってお前はこんな奴の肩を持つのか!? この淫売が!!」
父親は怒鳴って、本当に酷い状態だったね。




