表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ショタパパ ミハエルくん  作者: 京衛武百十
第一幕
55/697

それが僕の願いだ……

「あ~…何か違うんだよなぁ…もっとこう、もっと綺麗だったんだ。あぁ、もっと絵が上手くなりたいなぁ……」


自分が描いたスケッチを見ながら、悠里(ユーリ)が悔しそうに呟く。


そんな悠里の頭を、ミハエルがそっと撫でた。


「何事も鍛錬、練習だよ。見たままを描くのに必要なのは技術だ。そして技術は反復練習でよってのみ磨かれる。技術の先に進むには今度はセンスが必要になってくるだろうけど、根気よく練習を続ければ、もっと上手くなれるよ」


見た目には十歳から十一歳くらいの<お兄ちゃん>が、三歳くらいの<弟>の頭を撫でてあげているという感じの微笑ましい光景だけれど、その口調は経験を積んだ者が持つ重みと深みを備えていた。それが悠里にも沁みこんでくる。


「うん…ありがとう、父さん……」


素直にそう言えるのは、何よりミハエルが悠里にとって信頼に値する父親だったからに他ならない。


そして信頼に値するのは、自分の存在を受け止めてくれているという実感が悠里にあったから。悠里にその実感を与えてくれる接し方を、ミハエルがしているから。


「悠里、君は僕にとっても自慢の息子だよ。君が僕とアオのところに来てくれたのが何よりの幸せだ。


この世界はとても大変で辛いことや苦しいこともたくさんある。けれど、僕はそれらを君や安和(アンナ)椿(つばき)やアオと一緒に乗り越えていきたい。


それが僕の願いだ……」


悠里の小さな体を抱き寄せ、ミハエルが穏やかに語りかける。


「うん、ありがとう、父さん……」


そう応えた悠里は、さすがに今では少し気恥ずかしさもあるけれど、それでも彼にとってもそれは心地好いものだった。自分がここにいていいのだと素直に思えた。


だから思う。


『他人に攻撃的な人って、こんな風にしてもらえないんだろうな。もししてもらえてたとしても、きっと、安心できてないんだろうなって気がする……』


と。けれど悠里の場合は、ミハエルのことがそれだけ信頼できてるので、ミハエルが信頼に値する存在であることを実践して示してくれてるので、自分の中にある衝動に身を任せる必要がなかった。こちらに身を任せている方がずっと気持ちよかった。それでもう十分に満たされた。


これは、ミハエルだけができることじゃない。アオも同じことができるし、<もう一人の母親>とも言えるさくらにもできる。それどころか、(あきら)も、恵莉花(えりか)も、秋生(あきお)も同じことができる。


万が一ミハエルがいなくなるようなことがあっても、他にも何人も悠里のことを受け止めてくれる。


そして、いずれは安和(アンナ)椿(つばき)にもできるようになる。


と同時に、悠里自身も安和(アンナ)椿(つばき)に対して同じことができるようになっていく。


なにしろ、自分がしてもらったことを真似ればいいだけなのだから。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ