それこそが彼らの<日常>
こうして自分達の力ではまったくどうにもならない圧倒的な存在を前にした人間達は、少なくともこの場は毒気を抜かれて脱力してしまった。
もっとも、しばらくすればそんなことも忘れて同じことをするだろう。彼らを取り巻く状況が変わらない限り、それこそが彼らの<日常>なんだよ。<普通>なんだ。
彼らのような生き方をする必要のない人間がその在り方に憤ったところで、本当にただの<大きなお世話>でしかない。自分が『そんな生き方をする必要のない環境にいる』という大前提を考慮に入れない感情なんて、それこそただの害悪だしね。
だから僕達も彼らを裁くつもりは全くない。今回の件をどう捉えるかは彼ら自身の問題だ。
それよりも今は、ムジカの弟達を迎えに行くのが先決だよ。
けれど、さらに奥まで進んだ時、
「あいつはどこに行った!?」
という怒声と共に、「バシッ!」と何かを叩く音、そして、「ガツッ!」という衝撃音。
それを耳をした瞬間、僕達はその音が聞こえた<小屋>へと急いだ。ムジカにはまだ聞こえていなかったけど、僕達が走り出したことで何かを察したのか、遅れて走り出す。
「!」
その小屋を覗き込んだセルゲイは、床に転がった子供を踏みつけようとしてか足を上げていた中年男の姿を確認したのと同時に、足を掴んでグイッと持ち上げた。
すると中年男は呆気なくバランスを崩して、
「うげっ!?」
声を上げながら床に転がった。
「な? なんだ……!?」
そこでようやくセルゲイのことに気付き、
「なんだてめえっ!?」
彼が何かしたんだと察して声を荒げつつ体を起こそうとするけど、セルゲイが、踏ん張ろうとした足を払って立ち上がらせない。
「く…くそっ!?」
中年男はさらに立ち上がろうとはするけど、セルゲイはそれを許さない。
そうしている間にムジカが駆け付けて、
「レギ! ヒア! ニアナ!」
声を上げる。それに応え、
「兄ちゃん!」
小屋の中にいた子供達が声を上げる。さらに中年男も、
「でめえ! どこに行ってやがった! 仕事サボんじゃねえ!」
床に這いつくばったままですごむけど、さすがにその姿じゃサマにならないよね。
加えて、そんな中年男に、
「今から私が彼らを保護します。あなたには警察からお迎えが来ますよ」
セルゲイはスマホの画面をかざしながら告げる。そこには、先日のムジカが関わっていた強盗事件の画像が。そう、この中年男はその時の<主犯>だったんだ。
瞬間、
「くそっ!!」
その男はまるでネズミのように床を這ったまま駆け、小屋から出ていってしまう。
自分が警察に目を付けられたと知ってムジカ達を切り捨てて自分だけ逃げたということだね。




