淡い期待が捨てきれない
『俺を売り飛ばすつもりだろ……!』
そう言って僕達の前から姿を消したムジカだったけど、でも翌日にはまた、遠くから僕達の様子を窺っているのが分かった。物陰から覗いているつもりなんだろうけど、残念ながら隠れられていないよ。
ただ、僕達、いや、正確にはセルゲイかな?に向けられている気配は、疑念と共に何とも言えない複雑な感情が込められているものだというのは察せられた。
『君は私達とこうして出会ったことで、新しい可能性が示された。一つはこのまま罪を重ねて生きる道。もう一つは様々なことを学んで自ら生き方を探す道。どちらを選ぶかは君次第だ』
セルゲイが口にしたその言葉を振り切ることができてないのが伝わってくる。
『絶対に嘘だ』
とは思いつつ、
『もしかしたら……』
という淡い期待が捨てきれないんだろうな。
確かにセルゲイは嘘は言っていない。だけどムジカがこれまで見てきた大人は、とにかく自分に都合のいいことばかりを優先して、自分が得することばかりを考えていて、そのためなら他者を欺くことに何のためらいもない、他者を傷付け貶めることを当然の権利のように考えている大人ばかりだっただろうから、信じられなくて当然だよ。
ましてや<外国人>だしね。
実際、この国においては、外国人による犯罪も多い。人身売買なんてそれこそ外国人が<客>だったりする。それを知っていれば警戒しない方がおかしいとは僕も思う。
でも、『それでも』なんだろうな。それでも『もしかしたら』という気持ちが捨てきれない。
すると安和が、
「あいつ、助けるの……?」
と訊いてくる。それに対して僕は、
「そうだね。ただ、彼がそれを望むなら、だけど」
応えて、彼に向って歩いて行った。気配を消しているからムジカの方からは僕が違づいていることに気付けない。そして、ビルの陰に身を隠していた彼の背後に回り込んだ上で、
「セルゲイに何か用かな?」
と声を掛けた。
「うひゃいっ!?」
まったく気配もないままに背後から声を掛けられたことでムジカは奇妙な声を上げて、飛び上がりそうになる。
慌てて振り返った先には、自分と同じくらいの年齢の<子供>。だけど顔を見ただけで自分が様子を窺っていた外国人の家族だと察して、
「な、なんだよ、お前、あいつの子供か……!?」
あまり意味のない質問を口にしてしまったりも。
それに対して僕は、
「そうだよ。僕の名前はミグ。セルゲイは僕のお父さんだ」
この国に入国する際に使った偽名を名乗ったのだった。




