切り捨てられる側
こうして、人身売買組織が経営してたモーテルは警察の摘発を受けて潰されたけれど、どうやらその人身売買組織そのものの壊滅までは至らなかったみたいだ。それを仕切ってた人間達が、自分達にまで手が及ばないように現場を切り捨てたんだろう。そうやって、<切り捨てられる末端>がいることで実際に力を持つ者達は守られる。
<力を持つ者達>と<切り捨てられる末端>のどちらの数が多いのか考えれば、自分がどちら側の人間になれるか分かりそうなものだけどな。プロスポーツ選手を目指す人間の何割が本当にプロになれて、しかも実際に活躍できると思うの? 犯罪者にしたって、
<末端を切り捨てて自分の身を守れるほどの立場になれる者>
がどれだけいると思うの? プロスポーツ選手を目指す者達を嘲笑うような人間がどれだけの力を持てるようになると思うの? そういう人間もどうせほとんどが、
<切り捨てられる側>
で終わるはずなんだけどな。
そんなこともありつつ、僕達は次の国へと移動した。そこも、決して『豊か』とは言い難い国だった。昼日中から主要な幹線道路沿いでさえ強盗事件が発生するような治安状況だ。だけど、地球上の国でこのレベルの治安というところは実際にはすごく多い。むしろ日本という国が異端なんだよ。
だから基本的には気配を消して移動する。前の国でのタクシーに乗った時には、さすがにセルゲイ一人だけで乗り込んだように見せかけてはいろいろあれだから、あまり意識されないようにはしつつも完全には気配を消していなかったことで、目を付けられてしまったみたいだからね。
ここでも、タクシーを利用する時には完全には気配を消さないまでも意識されないようには気を付けつつ、歩いての移動では気配を消しておく。僕達は<美麗>と言っていい姿をしているから目立つんだ。セルゲイ一人で歩いてるだけでも、信号待ちの度に女性だけじゃなく男性からも声を掛けられる。<ナンパ>だ。
それらを笑顔で躱しつつ、食事を済ませショッピングを済ませ、ホテルへと入った。ホテルでは早速、アオと椿に連絡を取って二人を安心させ、安和はショッピングで手に入れたアクセサリについて自身のHPにアップする。
HP上のプロフィールではもうすでに高校生になっている彼女だけど、相変わらずの人気ぶりで、かつ、相変わらず無礼な振る舞いをする人間達が張り付いていたりもする。本当に何をしているんだろうね。同一人物かどうかは分からないにせよ、そういう人間がいなくならないというのは事実なんだ。




