買い取り業者
彼女は、マデューは、この地域に昔から住んでいた少数民族の少女だった。戦争が始まって村の男達は兵士として連れて行かれて、しかも近くで戦闘があったりして畑仕事もままならない状態で捨て置かれてる者達の一人でもある。
一応、その地域を自国の領土だと宣言している国からは避難を促されてはいたものの、でもそれに素直に従うとがら空きになった自分達の土地のすべてが勝手に接収されて戻るところを失うのが分かっていたから従わなかったらしい。
マデュー達の立場に立てば、横暴な大国の都合に振り回されてる人々ではありつつも、国の立場からすれば、国の決定に従わず身勝手な振る舞いをしている者達ということになるだろうな。
たとえどちらの立場になろうとも、相反する立場の人間達からの攻撃は免れない。そしてどちらもが共に、
『自分達に正義がある』
と考えてる。正義というのは、所詮、そういうものでしかないという何よりの証拠だね。
僕達吸血鬼からすれば、マデュー達の立場に共感してしまうけれど。
『数が少なく、大勢の人間達の都合に振り回されがち』
という意味で。
ただ、さっきの老人や老婆達も実際には彼女と同じ地域の者達だから、本来は仲間のはずなんだ。なのに、同じ立場のはずの者達同士でもそうやっていがみ合う。
これもまた人間という生き物の習性。
僕は、咄嗟に彼女を庇ってしまったけれど、すぐさま現実を突きつけられる結果になった。
だけどこれはまだまだ<序の口>だった。
彼女が、入り組んだ地形で戦略的には大した意味もなさそうな場所にあることで置き去りにされているような感じの村に戻ると、まず<買い取り業者>のところに足を運んで、手にしていたものをすべて換金してもらった。けれど、
「これだけ!?」
彼女が手にできたのは、一食分の食費にも届かないようなものだった。
「嫌なら他を当たりな。うちより高く買ってくれるところがあればいいけどな」
片足がなく、傍に杖を立てかけて粗末な机の向こうに座ってた中年男が吐き捨てるように言った。この男としても、他に仕事がないことで、盗品の買い取りを生業としてるということだね。盗品をさらに流す伝手があるからそれができるということか。
「くそ……っ!」
マデューは忌々し気に毒吐くけど、歯向かうことはしなかった。できなかった。彼女には盗品を捌く伝手が他にないから。
そうしてわずかな現金を手に別の建物に行って、小さなパンを買って、村の外れへと歩いたんだ。




