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ショタパパ ミハエルくん  作者: 京衛武百十
第五幕
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亡くなったフィアンセの遺品

そうして死体から遺品をはぎ取っていた人間達の中にいたのが、


<マデュー>


だった。彼女は、一見すると老婆のようにも見える格好をしていたけれど、動きや匂いからすると十五歳くらいだというのは僕にはすぐに分かった。もちろん母も気付いていたけれど、特に何を言うでもなく、好きにさせていた。


確かに、今の僕なら、蟻が死んだ昆虫を解体して自分達の巣に運ぼうとしているのと同じような意味でしかないのは分かる。だから母も何も言わなかったし何もしなかったんだ。それは<余計なこと>だから。


マデュー達も当然、気配を消している僕と母には気付かず、ただ黙々と作業を行ってるだけだった。


けれどその時、マデューが小さく、


「あ…!」


と声を上げたのが分かった。その彼女の手には宝石が付いた指輪。たぶん、婚約指輪だと思う。だけど明らかに女性が着けるようなデザインの上に古い傷がついていて、


<亡くなったフィアンセの遺品>


というのをすぐに連想させられるものだった。


<亡くなったフィアンセの遺品をポケットに忍ばせ戦場に出ていた兵士>


だったのかもしれない。だけど、彼女のその反応に近くにいた老婆が気付き、指輪を見るなり、


「あんたそれ、あたしのだよ! あたしが見付けたんだ!」


そう声を上げながら掴みかかってきた。マデューが先に見付けたのは明らかなのにも拘わらず、『自分が先に見付けた』と言いがかりを付けたんだ。だけどもちろんマデューも、


「ううっ!」


唸りながら抵抗する。そこへ別の老人が走り寄ってきて、


「寄越せ!」


二人を蹴りつけた。マデューと老婆はもつれあうようにして倒れて、マデューの手から指輪が離れ、老婆がすかさずそれに手を伸ばすと、さらに別の老人がその手を足で思い切り踏みつけて。


パキッと、枯れ枝が折れるような小さな音が響いたのが僕の耳に届いてきた。老婆の指の骨が折れる音だった。加齢で骨密度が下がった骨を足で思い切り踏みつけられれば折れて当然だろうな。


「ああ…っ!」


声を上げながらも老婆が指輪を放そうとはしなかったのを、


「しつけえ!」


老人は倒れた老婆の顔に容赦のない蹴りを。


なのに母は、そんな光景を見ながらも手を出そうとはしなかった。そうだよね。蟻が昆虫の死骸を奪い合っていても人間は普通は手出ししないよね。


だけど僕はつい、動いてしまってた。老人の足が老婆の顔を捉えようとした直前に僕は足を掴んで持ち上げたんだ。すると老人はバランスを崩して転倒。


「ギャッ!!」


って悲鳴を上げたんだ。



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