恵莉花の日常 その16
恵莉花が通う学校では、いかにも露骨な<イジメ>については対処される。
具体的には、<刑法犯>に当たるもの、当たるとみられるものについては指導が入る感じだろうか。
殴られる→暴行
金品を要求される→恐喝
危害を加えると脅される→脅迫
する必要のないことを強引にやらされる→強要
上靴などの持ち物を隠される→窃盗
教科書などの持ち物に落書きされる。壊される→器物損壊
等々。
以上に該当するような事例についてはまず<指導>が入り、それでも改まらないとなれば警察への通報も辞さないと明言されている。
ただ、
『積極的に挨拶しない』
『積極的にコミュニケーションを図らない』
等については、さすがにそれを学校側が強要することもできないので、
『クラス運営に支障が出ると担任教師が判断するレベルに達している』
くらいまで行かないと、精々、
『クラスの仲間なんだから仲良くしろよ』
と口頭で告げられるくらいに留められていた。
なので、
『<関わりたくない相手>に対しては積極的には関わらない』
ことがまかり通っている状態だろうか。
だから、恵莉花も千華も、そういう対応をされているというわけだ。
けれど、恵莉花も千華も、いい気はしないものの、
『まあ、関わりたくないってんなら、関わらなくていいじゃん』
と割り切るようにしている。
それに恵莉花の場合は、家に帰れば丸ごと癒してもらえるので、気にする必要もなかった。
一方、千華の方は、高校進学を機にシッターとの契約も終了し、現在、両親も彼女とは積極的に関わろうとせず、ほぼ一人暮らしに近い生活をしている。
しかし、だからといって家に<不良仲間>を招いてたまり場にするようなこともなく、時々、礼司を招いて甘い時間を過ごすだけだ。
もっとも、何かと言えば衝突する二人なので、本当に<甘い時間>を過ごせることは滅多にないけれども。
その分、千華は、学校で恵莉花に会うことで癒されているというのもある。
「エリといるとさ、ホッとするんだよね。あんたといる時が一番の幸せかな」
千華はことあるごとにそんなことを言う。
「でもそれじゃ、レイジの立場がないじゃん」
恵莉花がそう返すと、千華は手の平をひらひら振りながら、
「いいのいいの、あいつはあたしにとっては二番目だから。あたしにとっての一番はエリなんだよ」
と言い切ったりもする。
「もう、またそんなこと言って。そんなだからケンカになるんでしょ?」
苦笑いを浮かべる恵莉花だったものの、実は、礼司の方からも、
「あいつにはエリが必要なんだよ。だからさ、俺じゃ足りない分はエリに頼みたいんだ」
と言われていたりもする。
そう言えるくらい、実は分かり合えているのだった。




