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ショタパパ ミハエルくん  作者: 京衛武百十
第二幕
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エンディミオンの日常 その3

この世には、<復讐>を肯定する者が、<正当な行為>だと主張する者が、


『復讐は認められるべき』


と主張する者が数多くいるが、そういう者達にはエンディミオンを批難する資格はないだろう。むしろ彼の行為を肯定しなければおかしい。


彼が出した多数の犠牲者についても、


<復讐に伴う止むを得ない犠牲>


として認めなければおかしい。


なぜなら彼は、実の父親である吸血鬼の非道な実験の一方的な被害者なのだから。その<復讐>のために彼は動いていたのだから。


けれど、さくらもミハエルもアオも、彼のしたことは認めない。許してはいない。


ただ、彼は人間の法では裁けない存在であることに加え、現状では復讐そのものを抑えられていることから、


『吸血鬼に対する復讐心を抑えられる』


ことそのものが彼にとっては決して軽くない<罰>にもなるだろうということで、現状ではある意味で<保護観察中>と言える状態にあると解釈している感じだろうか。


もっとも、彼の復讐心を抑えられているのは、彼の<仇>でもあった実の父親が他のバンパイア・ハンターと相打ちになる形で死亡したことが判明したのも少なからず影響していると思われる。


そのバンパイア・ハンターもダンピールであり、数多くの吸血鬼だけでなく人間も巻き込んで犠牲者を出してきたことから、エンディミオン自身がもし復讐を続けていればという先例となったとも考えられるかも知れない。


そして何より、今の彼には、さくらがいて、子供達がいて、ただただ花を愛でていればいいという環境がある。


とは言え、普通なら<幸せ>と言っていいであろうその境遇も、彼にとってはある種の<牢獄>でもあるだろう。彼の存在意義そのものだった<復讐>を続けられないのだから。


彼が花の世話をしているのも、もしかすると刑務作業に近いものかもしれない。


彼にとっては苦役ではないというだけで。




「ただいま」


いつものように玄関前の温室で花の世話をしていると、声を掛けられた。


振り向かなくても声で分かる。娘の恵莉花(えりか)だった。


その声の調子がいつも通りなので、


「ああ……」


とエンディミオンの返事も素っ気ない。


さりとて父親が愛想良くできないことをよく知っている恵莉花は、特に気にすることもなくそのまま一緒に花の世話を始めた。


これがこの父と娘のコミュニケーションだった。


花に触れている父親の様子で、娘には彼の機嫌が分かってしまう。


娘も、父親の過酷な過去についてはすでに知っている。ダンピールという成り立ちからして普通じゃないことは幼い頃から分かっていた。


だから、父親の過去を知らされた時も、ショックだったのは事実でも、


「まあ、父親が兵隊として戦場に行ってたみたいなものだと思えば、ね……」


と応えてみせたのだった。


そして娘がそれを言えたのは、父親が自分のことを受け止めてくれているという実感があったからだろう。



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