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ショタパパ ミハエルくん  作者: 京衛武百十
第二幕
259/697

エンディミオンの日常 その2

『復讐のためなら許される犠牲がある』


そんなことを考えている人間がいるなら、それを考えている当人は、自分がその、


<復讐のための犠牲>


になることも肯定しなければおかしい。


エンディミオンはまさにその発想の下、復讐や報復を当然の行為として考えている者達を巻き添えにして吸血鬼を狩ってきた。


『復讐のためなら許される犠牲がある』のなら、それを考える者達の犠牲も、当然、<許される犠牲>であるはずだ。


そういう者達を巻き添えにしたことは批難される筋合いではない。エンディミオンは、もちろん、そう考えていた。


かつ、


『弱いから犠牲になる。オレは強いから犠牲になどならない』


とも考えていた。


『犠牲になりたくなければ強くなればいい』


とも。


しかしそれはあまりにも極端な考えである。何故ならば、人間がどれほど鍛えても爆弾には勝てないし、そして人間よりもはるかに強いダンピールであっても、彼よりも強い者も結局は存在する。


上には上がいるのだ。


そんなごく当たり前のことにさえ気付かないほど、エンディミオンの理解は幼い子供と大差ないものだった。


<心>を育ててもらえなかったがゆえに。


それが、ミハエルに出逢ったことで変えられた。変えられてしまった。


ミハエルは強い。実はミハエルは、吸血鬼の中でも群を抜いて強い吸血鬼だったのだ。


それでも、さらに<上>はいる。


セルゲイだ。あれほど穏やかで紳士的なセルゲイだが、単純な戦闘力で言うのなら、並の吸血鬼では束になっても勝てない。


とは言え、ミハエルもセルゲイもいわゆる<武闘派>と呼ばれるタイプではない。ゆえに<武闘派>として名前が知られることもなかった。


目立つ存在ではなかった。知られる存在ではなかった。


エンディミオンも<バンパイア・ハンター>としては非常に強い部類に入っていたものの、ミハエルが相手では勝ちきれなかった。勝ちきれないことを悟ってしまった。


だから倒せる機会を窺うために慎重になった。そして慎重に機会を窺っているうちに、何と言うか、さくらにほだされてしまったのである。


もっとも、今でもエンディミオン本人にそれを言うと絶対に認めないが。


だから誰も、それを彼に問うたりしない。


せっかくバランスが保たれているというのにわざわざそれを壊す必要もない。


もし、復讐を肯定する者が、彼がかつて手に掛けてきた人間のことで罪を問うとするなら、こう言わなければいけないだろう。


『エンディミオンのしたことは正当な復讐であり、それに巻き込まれた人間がいたとしても、あくまでも<復讐のためには認められるべき犠牲>である』


と。


ダンピールであるがゆえに人間の法で縛れないエンディミオンの罪を問うには、<復讐>そのものが正当な行為ではないことから始めなければならない。



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