安和の日常 その5
アオは、長命である吸血鬼のミハエルのパートナーになるにあたって、
「私は、眷属にはならない」
と誓いを立てていた。
普通に考えればここで、
『眷属になって一緒に生きるのが幸せでは?』
と考えるところだろうけれど、アオ自身もそれは考えたものの、
『私が人間じゃなくなったら、私は人間に対して冷静でいられるんだろうか?』
そう考えてしまったというのもある。
それでなくても自分は人間に対して少なからず恨みを抱いている。そんな自分が吸血鬼の眷属として吸血鬼になってしまったら、ミハエル達のように人間との共存を望めるだろうか?
という不安に加え、
「眷属は、自分の<主人>として自分を眷属にした吸血鬼に付き従うんだよね。それって、自分の意思でミハエルのことを愛してるって言えるのかな……?」
ミハエルに問うた時、彼も、
「それは……」
と言い淀んでしまった。ミハエルにさえ正確には分からなかったのだ。
眷属の主人への気持ちが果たして<愛>と呼べるものなのか否かが……
だからアオは、人間のままで彼を愛し続けることを決めた。
それでも、歳をとって自分の命の終わりが見えてきたら死ぬのが怖くて眷属にしてもらうことを望んでしまうかもしれない。
いくらその時には固く心に誓っていても、時間が経つにつれその決意が揺らいでしまうこともあるのが人間というものだ。
けれど、それを承知の上で、少なくとも自分が心変わりしてしまうまでの間は貫きたいと思った。
今のところは後悔もしていない。
自分の母親のそういう気持ちを知っているからこそ、安和も、<人間>を一括りにして、
『こんなもの』
と断じてしまうことをせずに済んでいる。
『人間なんて全部眷属にしてしまえばいい』
などと頭によぎらせることはあっても、そんな自分を肯定せずに済んでいる。
『ママがどうして人間でいることを選んだのか、私が理解しなきゃ……!』
と思えている。
我が子である安和にそう思ってもらえる親で、アオはあり続けることができていた。
そんな親を持つことができた自分に比べて、ネットで他人を攻撃せずにいられない人間達が憐れにも思える。
憐れに思えるから、あまり憤らずにも済んでいる。
『この人達の親は、私のパパやママみたいのじゃなかったんだろうな……』
そう思うのだ。
『私がこの人達と同じようなことをしたら、パパやママは、
<子供の躾もできない親>
って思われるんだろうな……それは嫌だな……』
自分の親を尊敬しているからこそ、安和にはミハエルやアオの評価を下げるようなことはしたくなかったのだった。




