ミハエルの日常 その6
下校途中にふざけていて危うく自動車に撥ねられそうになった子供は、それでも、
「危ねえだろ! このガキ!!」
すんでのところで躱すことができた(と本人は思っているが、実際にはミハエルが子供の体を掴んだことで当らなかっただけである)ドライバーに怒鳴られてさえ、
「ヤッベーッ!!」
と声を上げながら逃げていっただけだった。一緒にいた子供も、
「ギャハハ!」
などと笑いながら逃げ去っていく。
まるで懲りていないようだ。
「……」
そんな子供達を、気配を消したミハエルは、悲しげな表情で見送る。
もしこれで本当に懲りていないのだったら、あの子供はいずれ大きな事故に遭って命を落としたりするかもしれない。
自分の手の届く範囲であれば何度でも助けようとは思うものの、いかにミハエルといえどその手は無限に届くわけじゃない。
結局、あの子供達自身が気付いて自らの振る舞いを改めていくしかないのだ。
ミハエルの子供達は、自分にもしものことがあれば両親が悲しむことを知ってくれているから、悲しませたくないと思ってくれているから、命を粗末にしない。
あの子供達のような悪ふざけをしつこく繰り返したりはしない。
つまりあの子供達にはそういう実感がないということだろう。
「ただいま……」
椿が学校から帰るのを見届けた後、ミハエルも一旦、家に帰った。
「おかえり」
「おかえりなさい」
そう声を揃えて出迎えてくれたアオと椿と悠里と安和だったが、ミハエルの顔を一目見るなり、アオが、
「なにかあったの……?」
心配そうに問い掛けた。子供達も同じく心配そうにミハエルを見る。
アオと子供達には分かってしまうのだ。いつもお互いにちゃんと顔を合わせて気持ちを寄せて見ているから、普段と微妙に表情が違っていることに。
「あはは…やっぱり分かっちゃうんだな。実は……」
と、ミハエルは、椿が通っている学校の男子生徒が二人、ふざけながら道路を歩いていて、一度は注意したもののそれを聞いてもらえなくて再び悪ふざけをしていた一人が危うく自動車に轢かれそうになった上に、辛うじて無事で済んだもののまるで反省の様子も見せず逃げ去ってしまった一部始終を話した。
「まったく……死ななきゃ分かんないのかね」
安和が忌々しげに肩を竦めながら言う。
「その言い方はどうかと思うけど、気分が良くないのは事実だよね」
と、苦笑いを浮かべつつ悠里。
「どうしてそんなことするんだろ……もし死んじゃったりしたらパパやママが悲しむのが分からないのかな……」
椿は悲しげに顔を伏せながら呟いた。
そしてアオは、
「本当にね……
私は、みんなに何かあったらきっと悲しくて頭がおかしくなっちゃうよ。だからそんなことしてほしくない……」
椿と悠里と安和を抱き寄せながら言う。すると子供達は、
「私はそんなことしないよ」
「するわけないよね」
「しないしない。バカバカしい」
それぞれアオに体を預けながら応えてくれたのだった。




